3月21日、「両会」(全人代)を終えた中国から、駐日本特命全権大使に就任する外務次官補の呉江浩氏が東京に到着した。
中日両国の国交正常化から51年間で13代目の大使となる呉氏は、日本の政界やメディア界ではなじみの人物である。1998年に江沢民主席が訪日した際に同行通訳を務めたほか、2002年から5年間にわたり中国大使館で公使や参事官として日本の政界との交流窓口を担当した。その後はアジア局副局長、局長となり、引き続き日本とつきあってきた。よっての政界や経済界から、孔鉉佑氏の後任としての駐日大使の就任に厚い期待が寄せられていた。
呉大使は4月28日午前、日本記者クラブで初めての記者会見に臨んだ。感染対策としてオンラインとの並行実施での開催であったが、時間を割いて会場に駆け付けた時に席はすでになく、主催者側が壁際に運んできた椅子に座るほかなかった。
会見が大盛況だった理由は単純なもので、中国大使だからである。米中両国が対立し、中日関係も座礁に乗り上げそうな状態にある中、日本のメディアは呉大使の言葉から、対日および対米政策における中国政府の新たな考えを捉えたかったのである。
呉大使は会見で、まず極めて流暢な日本語で抱負を語った。
現在の日本との関係について呉大使は、「重大な岐路に立っているという認識だ。国交正常化以来、最も複雑な状況に直面し、新しい問題、リスク、チャレンジにさしかかっている。アメリカが中国に対し、ネガティブキャンペーンを繰りひろげ、圧力をかけ、さらに他国を引っ張り込んで強引に中国を封じ込めようとしている。このことが中日関係に影響を与える最大の外的要因となっている。当面の急務は、中日関係が航路から離脱せず、停滞、後退することなく、正しい方向性をしっかりと把握していくことだ。両国の指導者が何度も確認した重要な合意にのっとり、両国や両国民の根本的利益を見据え、新しい時代の要請にふさわしい中日関係の構築を推進していく必要がある」と指摘した。
呉大使は中日関係の改善や発展に向けて、真剣に考えるべき3点の問題を挙げ、次のように述べた。
一つ目は、「新しい時代の要請にふさわしい中日関係の構築に何を堅持すべきか」である。
外部の環境がいかに変わろうと、中日関係には独自の「基軸」があるべきで、それが中日の間の四つの政洽文書が定めた原則、精神であると考えている。日本側は中国を、「これまでにない最大の戦略的挑戦」と位置づけ、個別の国の反中、中国抑制に追随して、さらに「中国脅威」を喧伝することによって軍備拡充を加速している。日本側がこのような認識と政策基調に固執するのであれば、中日関係の基盤が実質的にダメージを受け、中日関係の健全で安定した発展は語れるわけがない。
二点目は、「新しい時代の要請にふさわしい中日関係の構築に何をコントロールすべきか」である。
台湾問題は中国の核心的利益の核心、中日関係の基礎の基礎、越えてはならないレッドラインである。台湾は中国の台湾であり、台湾問題をどんな形で解決するかは完全に中国の内政であり、いかなる外部勢力も干渉する権利がない。日本で、いわゆる「台湾有事は日本有事」という言い方があるが、これはまたあまりにも荒唐無稽で危ない。中国の純内政問題を日本の安全保障と結びつけるのは、非論理的だけでなく、極めて有害である。日本という国が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に縛られることになってしまう。
三点目は、「新しい時代の要請にふさわしい中日関係の構築に何を強化すべきか」である。
中国はずっと日本を重要なパートナーと見なし、日本とともにあらたな協力分野の探索、ハイライトの創出、そしてより高いレベルの強力ウィンウィンを実現したいと考えている。双方の強力は公平でオープンなものであるべきだ。人為的な制限、ましてやデカップリングやサプライチェーンの切断はあってはならない。半導体の輸出規制強化という発表があったが、これが中国を狙ったものであるかどうかはみんながはっきりとお分かりではないかと思う。アメリカから理不尽な経済弾圧を受け、その痛みがいまだ肌に残っている国では、それに加担するのはどうかと思う。そうするのであれば、中国市場だけでなく、日本の半導体産業の未来も失う。
話を終えて質疑応答となった際、呉大使は福島原発の処理水を海に排出する件について、「世界の海洋環境、そして全人類の健康と安全に直結するものだ」と指摘した。日本政府が軽率に海洋放出を決定したことに断固として反対するとのことである。
日本の製薬会社の幹部が最近北京で拘束されたことについて尋ねられた際には、「中国の国家安全に関わるスパイ事件であり、その事実がますます確実になっている。これは中国の主権が侵害されている事案だ」と指摘した。
「中国ビザがなかなか下りない」との問いに対しては、「ビザの申請は大変多く、大使館の職員が毎晩遅くまで残業している」と述べた。日本人への15日間のノービザ対応をいつ回復するかについては、北京の方で検討中という。ただ「個人の考えとしては、中日の間にこれほど多くの人的往来があることから、これからの交流や協力を考えると、お互い対等にノービザにしたらいいのではないか」とも述べた。そして過去に発生した不法滞在などの問題は今はもうなくなっており、日本政府はもっとオープンに中国人の入国問題に対応すべきでないか、としている。
中国大使が公の場で日本政府に対し、中国人訪日の際の15日間ノービザ対応などを求めたのは、今回が初めてである。
会見の後に数人の記者とコーヒーを飲みながら雑談した際、初めての記者会見における呉大使への評価を尋ねたところ、皆が「はっきりしているね」と答えた。
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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。
講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。
日本記者クラブ会員。