中国は果たして「生産過剰」なのか

2024/04/28 07:30

このところ、中国の生産過剰問題が取りざたされている。アメリカのイエレン財務長官は、先ごろの訪中時に「中国は新興の業種で生産過剰の兆しがある」と述べた。これにより低価格な品物が大量に輸出され、アメリカの会社や労働者の利益が損なわれているほか、メキシコやインドなどの会社も影響を受けていると見ている。また、生産過剰によりサプライチェーンの偏りを招いて世界経済の回復に支障が出ているとも強調した。

EUもこのところ、中国製の電気自動車(EV)に対する補助金の調査を急いでいる。EU議会で示されたこの調査に関するレポートを見ると、中国の安価なEVは電池の供給や生産がだぶついていることの表れだ、と書かれている。

中国の自動車はアメリカではほとんど販売されていないが、中国製EVはEUが主要な輸出先となっているほか、東南アジアや南米などにも行き渡っている。

「中国は、政府の補助金に支えられた安値を売り物にして、EUにEVや電池を輸出する形で国内の生産過剰を転嫁している」という欧米の主張に対し、中国の王文濤商務大臣は4月7日、フランスのパリで行われたヨーロッパの中国EVメーカーによる会合で、「中国のEVメーカーの急成長は補助金のおかげではなく、技術革新やサプライチェーンの完備、市場競争によるものであり、中国のEVは生産過剰だという欧米の指摘は根拠がない」と反発した。

王大臣は、「エコ型経済について中国は『生産過剰』だ、という欧米の主張はまるで根拠がない。EUは世界的な発展やサプライチェーンの違いによる正常な輸出を『生産過剰』などと見るべきでない。その論理で言うなら、EU各国の多くの優れた商品も生産過剰になってしまう」と強調した。

また、中国財政省の廖岷次官は4月8日、アメリカのイエレン財務長官による中国の生産過剰問題への懸念に対し、「中国は生産問題をかなり重視しており、イエレン長官との様々なレベルでの会談でも十分に真剣に回答をしている。いわゆる『生産過剰』とは、市場メカニズムが役割を発揮した結果であり、需給バランスは相対的なもので得てしてアンバランスが続く。市場経済体制を敷いているすべての国で起こりうるものであり、アメリカなど西側諸国も過去に何度も経験した。こうした問題を解決するには、価値や法則に沿って市場を調節することが必要だ」と述べている。

中国は、「生産過剰」への指摘にかなり神経質になっているようだ。「人民日報」は、生産過剰は決して悪いことではないとコメントしている。「製品の質が良く競争が公平であれば、生産過剰は世界の経済や生活にプラスになる。中国は世界のためにより良質で価格も手ごろなものを作る力があり、これは人類全体の利益にもなる。ところがアメリカは、生産過剰を利用して中国を締め付けている。これは事実上、自身の利益を守ろうとするがゆえに講じた手段だ」との主張である。

ただし、コロナ禍の影響で中国は輸出が落ち込み、国内需要も低迷して、各業種で生産過剰問題が顕在化してしまっている。

中国の「第一財経日報」によると、EVメーカーについて、現在生産設備を有しているのは80社あるが、実際に製造しているのは15社にとどまり、中国全体で1500万台分の設備が遊んでいるという。

中国国家統計局は3月31日、3月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.8で2月より1.7ポイント上昇、非製造業のビジネス活動指数は53.0で同じく 1.6ポイント上昇、と発表した。ただし製造業はコストが増え価格は下落し、各社とも利益が出なくなっている。業界内で競争が激化し、マーケットニーズも望めない企業の割合が依然として高い。

長江証券のチーフエコノミストである伍戈氏は、雑誌「財新」の取材に対し、「今は、ハイテク製造業の稼働率の落ち込み幅が従来型の業種より大きくなっている」と述べている。つまり、ハイテク製造業における生産過剰問題は、現段階では従来型の産業よりもより深刻なものであり、こうした状態は過去にはなかったという。中国は新エネ車やリチウム電池、太陽光発電といった業種が急成長しており、これらは政府の取り組みや安定した産業体系による部分が大きい。ただし今は、深刻な生産過剰問題に注意しなくてはならないという。

ここ2年間、物流基地の多大な投資や整備が続いたことで、今や様々な事業で供給過多に陥っている。GLPグループのコールドチェーン担当子会社社長である虞健民氏は、「財新」の取材に対し、今の中国は冷凍倉庫が構造的に過剰となっていると述べた。「もうこれ以上いらない、と前から言っている」と言う虞氏は、冷凍倉庫自体あまり需要がなく、様々なチャネルから一気に建設をしてしまった今、「たちまちにして過剰状態になった」と述べている。

中国の生産過剰問題は今に始まったことではなく、もう10数年も前から存在している。この問題は、地方政府の保護主義に端を発したものである。

地方政府では、経済を成長させる手っ取り早い方策は大がかりな投資で様々な工場を建設することである。中でも、移転にお金がかかるので定着させやすい上、現地にGDPや歳入を絶え間なく注ぎ込んでくれる重化学工業が対象となりやすい。企業誘致に向けて、税制面における優遇措置の実施、一部の業種に対する現地での営業許可の発給や補助金の支給、あるいは土地利用の許可、といった形でガバガバと投資を招いている。

地方政府では、幹部に対し業績評価をする際、経済の成長度合いがかなりの配点を占める。よって地方政府同士の競争も鳴りやまず、地域間における経済の競争が資本の奪い合いに変わり、多くの産業で同じものを建て、過度な投資を招いてしまう。真っ先に考えるのはマーケットではなく自分の業績、ということである。

ならば、これらをどのように解決すべきか。

中国政府は生産過剰を解消するため、各社に対し中南米や東南アジアなど海外での工場立地を薦めている。自動車メーカーで言えば、ヨーロッパでの販売数が多い上汽グループが現地で工場の場所選びを始めたと発表している。またBYDはハンガリーに工場を設ける。海外での販売台数が増えることで、輸出から現地生産へとシフトする企業も増えていくだろう。ただし、どの会社も同じ考えであり、足並みも早いことから、海外市場や外国政府から警戒感を抱かれてしまう。ある経済学者は、「自動車メーカーはおおむね、まず国内体制を整えてから海外進出するが、中国はこうしたプロセスを終えずに海外に出ていく。よって、現地のマーケットを乱してしまうリスクが増大する」と指摘している。

生産過剰はどの国も経験している問題であり、特に高速成長期が過ぎて国内需要が極度に落ち込んだ際、必然的に海外市場の開拓に走る。ただし、現地が不買運動などを起こさずもろ手を挙げて投資を歓迎してくれるような形を作るにはどうすべきか、中国の政府や企業は真剣に考えなくてはならない。

(中国経済新聞)