SHEIN、パリ・BHVマレに世界初の常設店 老舗百貨店との提携に地元で賛否

2025/11/6 11:09

 中国発のファストファッションブランド「SHEIN(シーイン)」が11月5日、パリ中心部の老舗百貨店「BHVマレ(BHV Marais)」6階に世界初の常設店舗をオープンした。店舗面積は約1000平方メートルに及び、同社が長年にわたりオンライン販売を主軸としてきた戦略から大きく一歩を踏み出す形となった。

 しかし、ファッションの都・パリの象徴的存在であるBHVに、中国の格安通販ブランドが常設店舗を構えることに、地元では激しい反発が起きている。BHVの従業員らは「百貨店の価値観に合わない」として抗議活動を行い、パリ市副市長も「提携を見直すべきだ」と発言。環境保護団体もSHEINの大量生産・大量廃棄型のビジネスモデルを「持続可能性を損なうもの」と非難している。

 これに対し、BHV側は「指摘された問題はすでに改善されており、開店は予定通り実施する」と説明。厳重な警備のもと、午後1時から開店セレモニーが行われた。

開店当日の様子と来店者の声

 開店当日は厳重な警備のもと、午後1時の開幕式に合わせて入店整理券を手にした客が次々と店内に入った。午前中からすでに数十人が市庁舎前の入口に列を作り、昼ごろには行列がリヴォリ通り沿いまで伸びたという。

 「フランス製品を買いたいけど、高くて手が出ない。給料は上がらないのに物価ばかり上がっている」と話すのは、家政婦として働く43歳のマリーさん。SHEINの低価格が来店の決め手になったと語った。パリ郊外から訪れた60歳のアミナさんは「オンラインで何度も買っていて、いつも満足している。私の6人の姉妹もみんなSHEINユーザー」と笑顔を見せた。

 一方、19歳の大学生ディアラさんは「世界初の常設店だから、話題として見ておきたい」と友人とともに訪問。別の来店客も「近くに来たので、どんな店か覗いてみたい」と話した。

 SHEINによると、パリ店を皮切りに、今後アンジェ、ディジョン、グルノーブル、リモージュ、ランスの5都市にも店舗を開設する計画という。今年6月には、ディジョンで9日間限定のポップアップストアを展開。約250平方メートルの店内で「誰もが楽しめるファッション」をテーマに、没入型の購買体験を提供した。

 「フランス製の服は高すぎる。SHEINは近くの店より半額以下で買える」と語る26歳のレアさんのように、物価高のなかで“安さ”を理由にSHEINを選ぶ消費者は少なくない。

社会的背景と企業の見解

 SHEINは、低価格でトレンドをいち早く反映する商品展開で世界的に急成長した一方、環境負荷や労働環境に関する批判を長く受けてきた。同社はこうした指摘に対し、「責任あるグローバル企業として、法令を遵守し、世界中の政府や当局と緊密に連携していく」との見解を示している。また、サプライチェーンの透明化や労働環境の改善、リサイクル素材の導入など、持続可能な生産体制への移行を進めていると説明している。

 SHEINフランスの広報担当者によれば、同ブランドはフランス国内で約2300万人の顧客を抱え、「第4に好まれるブランド」となっている。街頭広告には「ファッションは特権ではなく権利だ」というスローガンを掲げ、誰もが手に取れる価格帯を強調する。

 調査会社Ifopが今年2月に発表した調査では、フランス人の約6割が「年間の衣料品購入予算は200ユーロ以下」と回答。物価高が続く中で、SHEINの低価格戦略が多くの消費者に支持されている現状を浮き彫りにしている。

 ファッションの都・パリに登場したSHEIN初の常設店は、消費者の関心と批判の両方を集めている。価格の魅力に惹かれる庶民の声と、環境・労働問題を懸念する市民の声。その狭間で、SHEINの“リアル店舗進出”は、グローバルファッションの新たな論争の舞台となりつつある。

(中国経済新聞)