中国で、潮汕方言映画『おばあちゃんへの手紙』(中国語:給阿嬷的情书;英題:A Letter to Grandma)が大ヒットしている。5月9日に興行収入1億元(約21億円)を突破し、翌10日の母の日には、中国映画市場の日間興行収入ランキングで首位に立った。

同作は、広東省汕頭市出身の映画監督、藍鴻春 が脚本・監督を務めた作品だ。これまでにも潮汕地域を舞台にした『爸,我一定行的』や『带你去见我妈』で知られ、地元を中心に高い評価を得てきた。
『おばあちゃんへの手紙』は、全編で潮汕方言を使用し、多くの一般人俳優を起用した。著名俳優や大規模な制作費に頼らない中小規模作品でありながら、口コミによって人気が急速に拡大。公開初日の上映割合はわずか3.6%だったが、観客の評価が広がるにつれて上映館数も増え、地方色の強い方言映画から全国的なヒット作品へと成長した。
作品の題材となっているのは、「僑批(きょうひ)」と呼ばれる華僑文化である。僑批とは、19世紀から20世紀にかけて海外華僑が故郷へ送った手紙や送金証明書を指し、潮汕方言では「批」が「手紙」を意味する。関連資料は2013年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界記憶遺産」に登録された。

映画は、ありがちな悲劇的演出や安易な和解の物語を避け、「善意の嘘」を通じて女性同士の深い絆を描いている。面識のなかった2人の女性が、長い年月をかけて互いを支え合う姿が静かに描写されており、海を越えた思いや郷愁が作品全体を貫いている。素朴で余韻を残す作風も高く評価されている。
中国の映画レビューサイト「豆瓣」では公開直後に9.0点を記録し、現在は18万人以上のレビューで9.1点を維持している。中国の映画興行予測サービス「猫眼」や「灯塔」は、最終興行収入予測を3億5000万元(約74億円)以上へ引き上げており、「猫眼」は最終的に3億6700万元(約77億円)に達すると予測している。
同作は、大規模な広告宣伝を行わず、「地域先行・全国拡大」という段階的な上映戦略を採用した。
4月中旬から下旬にかけて、まず汕頭、揭陽、潮州の潮汕3都市で先行上映を実施。華僑の故郷としての地域感情に訴えかけ、その後、広東省全域へ上映を拡大した。制作陣は各地で舞台あいさつを重ね、観客との交流を通じて口コミを形成した。
4月30日の正式公開後は、福建省、広東省、広西チワン族自治区、海南省など華僑ゆかりの地域を中心に上映を強化。5月3日に交流サイト(SNS)やレビューサイトで評判が急速に広がると、全国規模で上映館が増加した。
現在も広東省が最大の興行収入源となっている。
5月11日午後6時時点で、広東省内の累計興行収入は9133万元(約19億円)に達し、全国全体の62.2%を占めた。浙江省、上海市、江蘇省、福建省がこれに続いている。
都市別では、深圳市、広州市、汕頭市が上位3都市となり、深圳市の興行収入は2090万元(約4億4000万円)を突破。広州市と汕頭市もそれぞれ1800万元(約3億8000万円)を超えた。揭陽市でも1100万元(約2億3000万円)を上回り、上海市でも600万元(約1億3000万円)を超えるなど、広東省外でも人気が広がっている。
また、5月11日時点で累計興行収入上位10館は、すべて潮汕地域の映画館が占めている。
藍鴻春監督はインタビューで、「作品の核心は潮汕方言や民俗文化を紹介することではなく、中国人の心に根付く“情義を重んじる精神”や“善を大切にする価値観”を伝えることにある」と語っている。
地域文化を土台としながらも、普遍的な人間ドラマとして共感を集めたことが、この異例のヒットにつながったとみられている。
(中国経済新聞)
