中国の富裕層がこぞって日本で家を買う理由

2025/05/26 07:30

日本の不動産市場はここ数年、火が付いたように好調である。東京の豪邸から大阪のタワマン、さらには伊豆半島の海沿い別荘や北海道の土地まで、至る所で中国人が購入している。「日本の物件は半分ぐらい中国人に買い占められた」という冗談も聞かれる。誇張気味ではあるが、データは物語る。2024年末現在、日本に住む中国人の数は82・2万人であり、この1年間は6万人も増えて近年にない移住ラッシュを迎えた。

 この中には、富裕層も随分と多い。太っ腹であり、100億円を抱えて東京でマンションを一気に20件も手に入れた、などというケースもある。彼らがこぞって物件購入に走るのはなぜか。

 まず、日本の不動産を投資先としている人が多い。土地代が中国のように倍に跳ね上がることもないが、安定感が売り物だ。東京や大阪などの主要都市では着実に値上がりしており、賃借による回収率も高い。さらに土地所有権について、中国では70年間と定められているが日本では永久的であり、この点は投資をする上で極めて大きな魅力である。

 また中国経済がこのところ先行き不透明であり、資産のあり方を見直している富裕層も出ている。財産の一部を海外へ移転しようとしており、この点で日本は地理的にも近く、文化も似通っている上に、物件購入について制限が少ないので第一希望先となる。日本の国籍がなくても、また長期滞在者でなくても家が買えるので、資金の流動が一段と容易になる。

 次に、「移住」を狙いとしている。日本では「住宅購入で移住可」という制度はないが、購入すれば経営管理ビザを申請する際にポイントが付く。このビザがあれば会社を起こしたり投資や商売をしたりすることが可能になり、長期滞在ができる。 このように、まず住宅を手に入れるか不動産投資をし、その後ビザの申請をして日本に住み着こうとする中国人富裕層は多い。

 ただ移住する目的は、ビザのように単純なものではない。日本のいい点として、多くの人が生活環境を挙げている。街並みがきれいで医療体制や教育制度も充実し、治安もかなり良い。こうした点が魅力なのだ。特に子供のいる世帯は、日本の外国人学校や犯罪率の低さはまさに「うってつけ」である。上海のある知り合いは、「ここで子供が学校に行けば安心だ」という単純な理由で東京にマンションを買った。

 それともう一つ見逃せないのが、文化的な親しみである。漢字や茶道、そして建物や食文化まで、日本は中国の影響を強く受けており、両国の間には常に「デジャブ-」といった感覚がある。「日本には唐や宋の味わいが残っている」などという中国人もおり、この点はエリート層からすれば大変な魅力なのである。

 上海のある会社経営者は以前、「日本で暮らすと、子供のころのゆったりとしたテンポに戻った気分になる。隣近所で言葉を交わし、街中の騒ぎ声も聞こえない。中国の大都市ではもうあり得ない感覚だ」と話してくれた。こうした生活様式に対する憧れから、家を買い、そして一家そろって移住してくるのだ。

 日本では、外国の資金流入による住宅価格の値上がりに対する心配感があり、特に東京や大阪の中心部は一般庶民に手が届かないものとなりつつある。中国人も含めた外国人の物件購入を規制するなら、居住資格や納税証明がないと購入不可、などという具合に法改正が必要となる。これは日本政府次第である。

 中国人富裕層による日本への移住ラッシュは実のところ、グローバル化と個人の選択が重なり合った結果である。社会と生活が安定し、オープンで文化的な魅力のある日本は、まさしく中国人が必要としていた世界だ。またこの流れは、「資産の安全への願い、よりよい生活への追求、そして将来への様々な計画」という中国社会の側面を映し出したものでもある。

(文:徐静波)

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。