2025年7月12日、愛知大学にて「第3回エズラ・ヴォーゲル記念フォーラム」が開催され、米国を代表する社会学者であり、東アジア研究の第一人者であった故エズラ・ヴォーゲル氏、ならびにその次男であるカリフォルニア大学バークレー校のスティーヴン・ヴォーゲル教授に、愛知大学名誉博士号が授与された。

この記念すべきフォーラムは、愛知大学国際中国学研究センター(ICCS)の主管によるもので、午前の第1部では名誉博士号の授与式と記念講演が行われた。開会の辞を愛知大学常務理事・副学長加納寛が述べ、趣旨説明はICCS所長の李春利教授が担当。林芳正内閣官房長官からはビデオメッセージで祝辞が寄せられた。

式では、ヴォーゲル氏の奥様であるシャーロット・アイケルズ氏(Case Western Reserve University 名誉教授)による講演「エズラ・ヴォーゲルの研究方法について」と、スティーヴン・ヴォーゲル教授による「父の視点から見た米日中関係について」が行われ、学問的功績とヴォーゲル氏の視座が多角的に語られた。

午後の第2部では、国際文化会館グローバル・カウンシル・チェアマンの船橋洋一氏が「ヴォーゲル先生に学んだこと」と題して基調講演を行い、続いて家族や研究関係者によるパネラースピーチが続いた。
長男デビッド・ヴォーゲル氏(New England熱傷生存者会名誉会長)は「ヴォーゲル一家の日本での思い出」と題し、幼少期に日本で暮らした記憶を回想。長女イブ・ヴォーゲル氏(マサチューセッツ大学准教授)は「世代を超えて伝えられるエズラ・ヴォーゲルの価値観」について語った。さらに、ヴォーゲル氏の最初の博士課程学生であったリチャード・ダイク氏(ハーバード大学アジアセンター顧問)は「競争相手を必ずしも敵にする必要はない」と題し、ヴォーゲル氏の思考法を語った。

パネル討論では、登壇者に加え、塩山正純国際コミュニケーション学部長も加わり、ヴォーゲル氏の研究テーマ、東アジアの地域理解、そして人物としての魅力について深い議論が交わされた。総括は前学長の川井伸一氏が行い、フォーラムを締めくくった。
今回のフォーラムには、ヴォーゲル氏の家族7人(夫人、長男夫婦、次男、長女、孫2名)がアメリカから来日し、初めてご一家そろって日本を訪問した。家族の証言を通じて、学者としてだけではなく、一人の父・夫・祖父としてのヴォーゲル氏の姿が立体的に浮かび上がった。

また、フォーラムに先立ち、愛知大学図書館では「エズラ・ヴォーゲル書斎」の特別展示も実施。ヴォーゲル氏が生前に使用していた書籍約3600冊が、米国の自宅書斎と同じ順番に並べられ、訪れた関係者や家族に深い感動を与えた。

これらの蔵書は、ハーバード大学客員教授として滞在中だった李春利教授の「東アジアのどこかの大学に」の提案を受け、夫人のシャーロット氏が日本へ願いを込めて愛知大学へ寄贈したもの。3600冊におよぶ蔵書は現在、愛知大学図書館に所蔵されており、他大学の研究者にも広く利用できるよう整備されている。

エズラ・ヴォーゲル氏の研究と人間性に触れるこのフォーラムは、日米中の相互理解と東アジア研究の継承に向けた重要な節目となった。

愛知大学は今後も、エズラ・ヴォーゲル氏による東アジア地域研究の成果とその意義をあらためて検証し、そこから現代における東アジア地域研究の課題を明らかにするとともに、その研究成果を国内外に広く発信していく方針である。