中国、中央経済工作会議にみる経済政策方針

2025/01/6 13:44

はじめに 

24年12月11~12日、25年の経済政策方針を決める「中央経済工作会議(以下、会議)」が開催された※1。

会議では、現在の経済状況と課題を示した上、内需拡大等を重点とする25年の経済運営方針を明らかにし、より積極的な財政政策と適度に緩和された金融政策により経済の回復・拡大を図るとの方針を示した。一方、地方債務問題や不動産市場調整に備える側面も大きく、今後の成長への寄与は引き続き観察する必要がある。

本稿は会議の内容を整理し、昨年の中央経済工作会議と比較しながら紹介する。

1. 24年は+5%前後の実質GDP成長目標達成が視野に

(1) 「経済・社会発展の主要目標・任務は間もなく順調に達成」

 会議は経済の現状について、「外部の圧力が増大し、内部の困難が増えている複雑で厳しい情勢に直面。(中略)安定の中で前進が見られ、質の高い発展が着実に進み、経済・社会発展の主要目標・任務は間もなく順調に達成。新しい質の生産力が着実に発展し、改革開放が持続的に深まり、重点分野のリスクが秩序よく有効に解消され、民生保障が着実かつ力強く、中国式近代化が新たな堅実な一歩を踏み出した。(中略)特に9月26日の中央政治局会議が包括的追加政策を果断に手配し※2、社会の自信を有効に高め、経済が顕著に持ち直した」との認識を示した。

24年1~9月平均実質GDP成長率は+4.8%となり、「35 年までに倍増」※3目標達成に必要な年平均成長率を上回り、24 年政府目標値である「+5%前後」の範囲内でもある。7~9月期成長率+4.6%のうち純輸出の寄与度は+2.0%と4~6月期の+0.6%から急拡大しており(図表1)、今後関税引き上げが懸念される対米輸出の駆け込みが発生しているとみられる。10~12 月期もこの基調は続くと考えられる。「経済・社会発展の主要目標・任務は(中略)順調に達成」とは、外需が押し上げ要因となって+5%前後のGDP成長率目標を達成見込みとの示唆であり、またこの反面、25年入り後は反動により純輸出寄与度が縮小することも想定される※4。

(2)「内需不足、一部企業の生産経営困難、大衆の就職や所得増が圧力に直面」

 他方、課題についての言及では「外部環境の変化による不利な影響が深まり、我が国経済は依然として少なくない困難と挑戦に直面」しているとし、「主に国内需要が不足、一部企業の生産経営が困難で、大衆の就職や所得増が圧力に直面、リスクや潜在的問題が依然比較的多い」とした。 23 年会議では経済回復好転のため克服すべき困難・挑戦として「有効需要不足、一部業種の生産能力過剰、社会の予想の弱さ、依然多いリスク・隠れた危険、国内大循環の目詰まり、外部環境の複雑さ、厳しさ、不確実性の増大」を挙げており、米国をはじめとする対外関係変化のマイナスの影響が昨年より増していることを示唆している。

(3)内需拡大とりわけ消費活性化に重点

25 年の経済運営について「安定の中で前進を求める取り組みの全般的基調を堅持し、新たな発展の理念を完全、正確、全面的に貫徹、新たな発展の枠組み構築を加速、質の高い発展を着実に推進、改革を一段と全面的に深め、高水準の対外開放を拡大、近代的産業システムを築き、発展と安全をより一層一体化して調整、より積極的で有為なマクロ政策を実施、国内需要を拡大、科学技術革新と産業革新の融合発展を後押し、不動産市場と株式市場の安定を図り、重点分野のリスクと外部からの衝撃を防ぎ、解消、予想を安定させ、活力を喚起、経済の持続的回復・拡大を図り、人民の生活水準を絶えず高め、社会の調和・安定を維持、第14次5カ年計画の目標・任務を質的に高く達成、第15次5カ年計画(26~30年)の好スタート実現に向けて基礎を固める」方針を明らかにした。

25 年の重点として、①国内需要を全面的に拡大、②科学技術革新で新しい質の生産力発展をリード、近代的産業システム構築、③経済体制改革の牽引作用を発揮、象徴的な改革措置が着実に効果を上げる、④高水準の対外開放拡大、⑤重点分野のリスクを効果的に防止・解消、⑥新型都市化と農村の全面的振興を一体化して推進、⑦地域戦略の実施に力を入れ、地域の発展活力を増強、⑧炭素・汚染排出削減・グリーン成長拡大、⑨民生の保障と改善、の九項目を挙げた。

23 年会議で示した24年方針※5は①科学技術革新で近代的産業システム構築、②内需拡大に注力…の順となっており、25 年は内需拡大を重視、とりわけ「消費を強力に喚起する」としていた。

消費拡大の具体的な内容は、「①退職者の基本年金を適度に引き上げ、都市・農村住民の基礎年金引き上げ、都市・農村住民の医療保障財政補助基準引き上げ。②範囲を拡大して「両新」政策を実施、多様な消費シーンを創り出し、サービス消費を拡大、文化・観光業発展促進。③(新業態・モデル・サービス・技術を打ち出す)「首発」経済や氷雪(ウィンタースポーツ・観光)経済、シルバー経済を積極的に発展」とし、社会保障の充実と新規サービス消費の開拓が主体である。

2.  財政金融政策は問題解決に向けた負担削減を目的に

(1)金融政策は14年ぶりに「適度な緩和」に回帰

財政金融政策について、今次会議は24年の政策方針であった「積極的な財政政策、穏健(中立的)な金融政策」から25 年は「より積極的な財政政策(更加积极的财政政策)、適度に緩和された金融政策(适度宽松的货币政策)」に変更した。金融政策の「適度な緩和」の表現はリーマンショック時の08年11月国務院常務会議(、同年会議)以来で、10年同会議時以降採用していた「穏健(中立的)」からの変更である。財政政策は「より積極的」とし、24年会議時の「積極的」から踏み込んだ表現とした(図表2)。

(資料)人民日報

 24年12月13日 http://paper.people.com.cn/rmrb/pc/content/202412/13/content_30045524.html

23年12月13日

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2023-12/13/nw.D110000renmrb_20231213_1-01.htm

(2)内需拡大は的を絞った形での資金投入に

金融政策が08年9月リーマンショック以降と同じ「適度な緩和」となり、財政政策も「より」積極的となれば、08年リーマンショック以降採られたような、大規模なインフラ投資を主体とする景気刺激策の再来となるのか。

中央財経委員会弁公室(中財弁)責任者による会議の解説※6を読むと、消費拡大策として「両新(大規模設備更新、以旧換新※7=消費財の買い替え・下取り)」の一方である以旧換新の範囲拡大とそのためより多くの資金が手配されるほか、投資拡大について「両重(国の重大戦略実施と重点分野の安全保障能力)」、不動産(都市更新と老朽家屋の改造)等、「足りない部分を補完し、底力を高める(補短板、増後勁)」との説明がある。これらから、内需拡大は的を絞った形での資金投入になることが示唆される。

(3)不動産、地方政府債務対応としての財政金融政策強化

中財弁説明では、民営経済、不動産、地方政府債務についても問答があり、これらのやりとりから、財政金融政策対応の用途が拡張的な使用というより、各分野での問題解決に向けた負担削減を目的に使用される性質であることが伺われる。

民営経済に関して、①公正な競争、②債務滞納問題解決、③企業関連法執行の規範化を挙げており、このうち②について、「地方政府は管轄地における責任を着実に履行し、新期地方政府特別債などの政策をうまく活用して、企業債務の返済を加速させるために最大限の力を尽くす」とし、民間企業債務問題解決に地方政府特別債を用いるとしている。

不動産について、①需要の放出、②供給の改善、③タイプ転換の後押しを挙げる中で、①について「すでに打ち出した住宅ローン、租税政策措置を着実に実施して、住宅購入コストを確実に引き下げ」、②に関して、「中央がすでに明らかにした、地方政府債券で遊休・売れ残りの土地の活用や売れ残り住宅の購入支援の、実施可能なやり方の整備を急ぐ」としている。

地方政府債務への対応※8として、①地方特別債を含む政府債券の規模を増やし、投資分野と使用範囲を拡大することで、経済成長を効果的にけん引し、地方政府の資金源を増やす、とした上で、「適度に緩和した金融政策を実施すれば、地方政府債務の金利を効果的に引き下げることができる」と説明している。ほかに②地域のバランスが取れた中央と地方の財政関係を確立し、全方位の地方債務モニタリング・監督管理システムと隠れた債務リスクを予防・解消するための長期的メカニズムを確立、③地方政府隠れ債務の置き換え作業をしっかり行い、科学的に分類し、的確に置き換え、債務構造を最適化し、利息の負担を低減することを挙げている。

以上の政策方針の下、外部環境変化による不利な影響を内需拡大により補完し、不動産や地方債務といった構造問題への対応をどこまで進められるか。加えて財政・租税など経済体制改革(25年9方針の3)、都市・農村の一体化発展や地域発展戦略(同6,7)による成長確保も25年の中国経済を見ていく上での注目点となるだろう。

(資料)人民日報 

24 年12月13日http://paper.people.com.cn/rmrb/pc/content/202412/13/content_30045524.html

※1 人民日報24年12月13日「中央经济工作会议在北京举行(中央経済工作会議を北京で挙行)」。

http://paper.people.com.cn/rmrb/pc/content/202412/13/content_30045524.html

※2 財政・金融政策の逆周期(カウンターシクリカル)調整(必要な財政支出を確保、預金準備率を引き下げ、強力な利下げ、不動産市場の持ち直し・回復、資本市場の活性化)を打ち出した。人民日報9月27日「中共中央政治局召开会议 分析研究当前经济形势和经济工作 中共中央总书记习近平主持会议(中央政治局会議を招集開催 当面の経済情勢と経済工作を分析研究 習近平中共中央総書記が会議を主宰)」

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2024-09/27/nw.D110000renmrb_20240927_1-01.htm

※3 14次五か年計画を策定した20年10月五中全会において、習近平総書記が「2035年に経済総量(GDP)或いは一人当たり収入を倍増させることは完全に可能(到2035年实现经济总量或人均收入翻一番,是完全有可能的)」と説明。「35年に20年比倍増」達成のために求められる実質GDP成長率は20~35年の15 年で年平均+4.7%。新華社20年11月3日「关于《中共中央关于制定国民经济和社会发展第十四个五年规划和二〇三五年远景目标的建议》的说明」http://www.xinhuanet.com/politics/leaders/202011/03/c_1126693341.htm

※4 25年実質GDP成長率の政府目標は、3月の全人代で公表されるが、24年と同じ「+5%前後」との観測が多い。

※5 24年9項目方針:①科学技術革新で近代的産業システム構築、②内需拡大に注力、③重点分野の改革、④高レベルの対外開放、⑤重点分野のリスクを持続的に有効に防止、解消、⑥「三農」( 農業、農村、農民)工作を揺るぎなく、⑦都市・農村融合と地域の調和発展、⑧エコ文明建設とグリーン低炭素開発、⑨民生の保障、改善。

※6 人民日報12月17日「中央财办有关负责同志 深入解读2024年中央经济工作会议精神(中央財経委弁公室責任者 2024年中央経済工作会議精神を踏み込んで説明)」

http://paper.people.com.cn/rmrb/pc/content/202412/17/content_30046646.html

※7 「二新」「二重」政策実施の効果:12月12日までに、「二新」が、自動車買い替え520万台余り、売上高6,900 億元余り、家電製品買い替え4,900万台余り、売上高2,100億元余り、老朽設備更新200万台余りをけん引。「二重」プロジェクトは西部陸海新ルートの建設、東北黒土高基準農地建設、「三北(西北、華北、東北の植林事業)」プロジェクト建設など1,465件の重要プロジェクトの建設を支援(脚注6、中財弁責任者説明)。

※8  11月8日に閉幕した14期全人代常務委員会第12回会議は、24年末地方政府債務限度額を29.52兆元から6兆元増やし35.52兆元とする「地方政府債務限度額を増やし隠れ債務に置き換える国務院議案」を承認。人民日報24年11月9日「全国人民代表大会财政经济委员会关于《国务院关于提请审议增加地方政府债务限额置换存量隐性债务的议案》的审查结果报告」

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2024-11/09/nw.D110000renmrb_20241109_4-04.htm

(文:細川 美穂子)

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みずほ銀行  

中国営業推進部 上席主任研究員  細川 美穂子

1988 年慶応義塾大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、調査部にてアジア及び中国経済担当。02年みずほ総合研究所出向。 05~08年北京支店、11年4月~23年1月まで上海駐在、瑞穂銀行(中国)有限公司中国アドバイザリー部 中国業務部主任研究員。同年1月より現職。これまで週刊エコノミスト、東亜 他多数メディアにて、現地発中国マクロ経済に関する記事を連載。

出典:MIZUHO CHINA BUSINESS MONTHLY REPORT 2025年1月 P4~12