甘粛省の旅⑤:黄河の上に築かれた都市——蘭州

2025/08/16 09:36

甘粛省の旅の最終目的地は、蘭州である。

張掖市から高速鉄道で3時間余り、蘭州に近づくにつれ、黄色い水が流れる蛇行する川が見えてきた。同行した甘粛省の職員が「これが黄河です」と紹介してくれた。黄河は青蔵高原を源流とし、青海省を経て蘭州へと流れ込む。そのため、蘭州は中国で唯一、黄河が市中心部を流れる都市となっている。

蘭州は甘粛省の省都であり、政治、文化、経済、教育の中心地である。秦の時代から2200年以上の歴史を持ち、古来より「四域を結ぶ」交通の要衝であり軍事の要塞として栄え、「黄河の真珠」と称されてきた。秦始皇33年(紀元前214年)、金城郡榆中県が設けられ、蘭州地域の最初の行政区画となった。西漢時代には仏教がシルクロードを通じて蘭州に伝わり、東漢以降は西域の僧侶が中国を訪れ、経典の翻訳や布教活動を行い、蘭州を経由する漢僧も西方へ求法の旅に出た。隋の開皇3年(583年)、金城郡を蘭州と改称し、城南の皋蘭山にちなんで名付けられた。中華人民共和国成立後は、国家の重点工業基地に指定され、石油化学、装備製造、バイオ医薬、新素材の重要な拠点となっている。人口は440万人である。

蘭州で、私は甘粛省党委書記の胡昌升氏に会った。彼は「蘭州は甘粛省最大の中心都市である。甘粛省は中国西部の重要な生態安全の要であり、エネルギー基地であり、「一帯一路」の戦略的通路でもある。経済の特徴は第二次産業の製造業で、文化の厚みがあり、華夏文明の発祥地であり、農耕文明と遊牧文明、中華文明と世界文明の交差点でもある」と語った。

蘭州は黄河の上に築かれた都市であり、ほぼすべての建物が黄河の両岸に立っている、歴史ある黄河文化の名城だ。

黄河のほとりに足を運ぶと、子どもたちが川辺で遊び、男性が黄河に飛び込んで泳ぐ姿が見られた。黄河の急流も、地元で育った子どもたちの挑戦する情熱を抑えることはできない。

蘭州が「文化名城」と呼ばれる理由の一つは、清朝の乾隆帝が編纂を命じた『四庫全書』が保存されていることである。『四庫全書』は、乾隆帝のもと、紀昀ら360人以上の高官・学者が編纂し、3800人以上が手書きで書き写し、13年かけて完成した。経・史・子・集の四部に分かれ、3462種の書籍、7万9338巻、約3万6000冊、8億字に及び、すべて手書きである。明の『永楽大典』の3.5倍に相当するこの大事業は、乾隆47年(1782年)に初稿が完成し、乾隆57年(1792年)に全巻が完成した。乾隆帝は7部を書き写させ、全国各地に分蔵し、その一部が蘭州の文溯閣に収められている。

8月15日午後、私は文溯閣を訪れ、200年以上前に編纂された『四庫全書』を地庫で見学した。樟木の箱に収められた国宝級の書籍を前に、先人たちが膨大な書物を真剣に編纂し、丁寧に書き写した情景を想像し、世の中にこれほど「真剣かつ几帳面」な人々がいたことに驚嘆した。

蘭州で最も有名なのは、おそらく「蘭州拉麺」だろう。しかし、蘭州に来て初めて、「蘭州拉麺」は蘭州のものではなく、隣接する青海省の人々が創り出したものだと知った。青海省の人々が蘭州で拉麺店を開き、「蘭州拉麺」と名付けたことで、世界的に知られるようになった。だが、蘭州では「蘭州拉麺」ではなく、「蘭州牛肉麺」が主流である。つまり、蘭州人が食べるのは「蘭州牛肉麺」なのだ。この事実は、天津に「天津丼」がないのと同じく、なんとも面白い発見だった。

正宗の「蘭州牛肉麺」とはどのようなものか。蘭州市政府主催の懇談会で、靳芳副市長は、蘭州牛肉麺は「一清(スープが澄んで香る)、二白(大根が白く純粋)、三紅(唐辛子油が赤く浮く)、四緑(パクチーとニンニクの芽が新鮮で緑)、五黄(麺が柔らかく黄色い)」の五大特徴を持つと紹介した。麺の種類も細いものから太いものまで多様で、シルクのような細さや玉のような幅を持つものがある。蘭州牛肉麺は中国政府により中華三大ファストフードの一つに指定されており、今後の課題は世界への進出である。

蘭州にはもう一つの奇跡がある。1980年代に創刊された『読者』誌は、全国で爆発的な人気を博し、最盛期には1号あたり1000万部の発行部数を記録した。『読者』社の巨大なビルと「読者博物館」を訪れ、北京や上海のような文化の中心地ではない中国の西北部で、世代に影響を与えた雑誌が生まれたことに驚いた。これこそ西北の人々の創造力である。2019年11月発行の『読者』誌は累計発行部数20億部に達し、その記念号には私の書いた日本のマンション管理に関する記事が転載されており、なんとも縁を感じた。

蘭州は、黄河の流れと共に歴史と文化を育み、現代中国の工業と文化の拠点として輝く都市である。その魅力は、伝統と革新が交錯する点にこそある。

(文:徐静波)

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。