「双十一」成績表に映る新たな消費トレンド――取引額からユーザー行動へ、AIが描く市場の質的転換

2025/11/18 16:30

中国の年末商戦を象徴する「双十一(ダブルイレブン)」が今年も幕を閉じ、11月12日には主要ECプラットフォームが相次いで成果を公表した。特徴的だったのは、かつて競うように打ち出していた「取引総額」の数字が姿を消し、代わってユーザー増、注文構造の変化、AI活用の進展といった質的指標が前面に出た点である。消費行動の変容が進むなか、デジタル経済の内生的な成長力が鮮明に表れた格好だ。

■ 取引額ではなく「行動の深掘り」へ

中国の大手EC「京東(ジンドン、JD.com)」は、11月11日23時59分までの集計として、注文したユーザー数が前年比40%増、注文量が約60%増だったと発表した。

アリババグループが運営する「天猫(テンマオ、Tmall)」は、即時購入サービス「タオバオ即時購入(旧称:閃購)」による新規ユーザーの増加を強調し、同サービスでの新規注文数が1億件を突破した。

データを見ると、11月5日時点でタオバオ即時購入では、飲食ブランド1万9958店、非飲食ブランド863店が「双十一」前と比べて取引額が100%以上増加しており、即時消費の勢いを裏付けている。

■ 男性美容やスキー用品が急伸 ――新たな消費画像

動画型ECプラットフォーム「クアイショウ(快手、Kuaishou)」が公開した「消費トレンド図鑑」では、今年特有の流行が浮かび上がる。

男性向け美容が急伸し、特に男性用フェイスエッセンスは前年比70倍以上の売れ行きを記録。また、「スキー5点セット」が早くから売れ筋となり、スキーウエアの販売額は前年の288倍に達した。子ども用スキー服やスノーパンツなども好調で、興味・嗜好型消費の拡大が顕著だ。

一方、デリバリー即時購入サービス「美団(メイトゥアン)即時購入」では、主力ユーザーが「1995年以降生まれ」「2000年以降生まれ」の若年層となり、一人当たりの消費額は前年比約3割増。配送を待たず、まとめ買いをせず、予約販売を待たない「欲しい時にすぐ買う」という購買行動が浸透している。

■ 県域市場の台頭 中小都市で新しい家電が普及

地域別では、県域(中小都市・農村部)の市場潜在力が際立つ。家電量販大手「蘇寧(スーニン)」が展開する県域向け販売ネットワーク「蘇寧小売クラウド」では、販売規模が前年比48%増。壁掛けエアコン、液晶テレビ、両開き冷蔵庫、キッチン家電セットの売れ行きがそれぞれ168%、93%、104%、76%と大きく伸びた。さらに、乾燥機、食洗機、浄水器が「県域家庭の新三大家電」として普及している。

■ 核心テーマはAIの本格導入

今年の「双十一」の最大のキーワードがAIだ。天猫は今年を「AI全面実装の元年」と位置づけ、流量配分、消費者体験、出店者の運営支援まで全プロセスにAIを導入した。

AIによる「全商品レコメンド」を適用した商品は成約が30%以上増加。生成AI(AIGC)を利用した「ビジネスアシスタント」は商品クリック率を10%引き上げ、AIカスタマーサービスは100万以上の店舗を支援した。

京東は独自AI体系「JoyAI(ジョイエーアイ)」をサプライチェーン全体に組み込み、活用シーンは1800件以上に拡大。また、AIデジタルヒューマン「JoyStreamer(ジョイストリーマー)」は4万超のブランドの配信を代行し、「双十一」期間に23億元以上の売上を創出。コストはリアル配信者の約10分の1に抑えられ、AIによる販売支援が定着しつつある。

■ 必需品から興味消費へ、価格から価値へ

今年の「双十一」を振り返ると、消費者の行動は確実に変化している。

必需品中心から興味消費へ、低価格志向から価値志向へ。そして、大量の買い置きよりも、必要なタイミングで購入する傾向が強まった。多様で、自分らしい生活を求める姿が浮かび上がる。

中国商務部研究院の洪勇・副研究員は、「双十一」は17年の発展の中で単なる購買イベントを超え、中国の消費構造を映し出す“プリズム”になったと指摘する。

国研新経済研究院の朱克力・院長も、今年の動向は「量から質への転換」という明確なシグナルだとし、供給側の最適化や細分化需要の喚起がより重要になっていると述べる。また、AIの浸透が消費体験の再構築を加速しているとも分析している。

■ 結び

取引総額の競争から、ユーザー体験・価値・需要細分化の競争へ。今年の「双十一」は、消費構造の質的転換が本格化した節目となった。データの背後には、多様性と自己主導性を重視する新しい消費者像が広がっている。

(中国経済新聞)