中国EC三強、再び「ダブル11」特番で激突――ブランド競演か、流量争奪か

2025/11/12 18:30

中国のネット通販最大セール「ダブル11(独身の日)」を前に、主要ECプラットフォームがこぞってテレビ局と組み、特別番組を相次いで放送した。天猫(ティーモール)は湖南衛星テレビと共同で「天猫ダブル11クレイジー・グッドナイト」を、抖音(ドウイン、中国版TikTok)は東方衛星テレビと組んで「流光の夜・心動コンサート」を開催。前日には京東(ジンドン)が同じく東方衛星テレビと「京東11.11サプライズナイト」を放送した。当日は「クレイジー・グッドナイト」などの関連ワードがSNSの検索ランキング上位に躍り出た。

ブランド露出と流量獲得の二重戦略

各社の番組は、単なるエンターテインメントではなく、事業線の宣伝を兼ねた一大ショーケースでもある。京東はスマートフォン事業やライブ配信部門などを前面に打ち出し、天猫は公式ライブ配信や天猫スーパーの露出を図った。
抖音はさらに多くのブランドと連携し、SK-II、パンテーン、谷雨(中国化粧品ブランド)、藍月亮(洗剤)、科大訊飛AI学習機、学而思学習機などがスポンサーとして登場。SK-IIや谷雨は、同社の美容カテゴリーでトップクラスの売上を誇るブランドだ。

ライブコマース業界関係者によると、こうしたスポンサー枠はブランド露出や広告連動、リソース交換などを含む「権益パッケージ」として販売されており、番組の視聴熱度をテコにブランド認知度の向上や購買転換を狙う仕組みだという。実際、第三者モニタリングによれば、11月10日夜にはSK-IIの売上が一時的に急増し、検索指数も7万件を超えた。もっとも、抖音側は番組効果の具体的な業績貢献についてコメントを控えている。

再燃する「ダブル11」特番ブーム

ここ数年、プラットフォームのテレビ特番は一時期下火になっていた。2022年には主要企業によるテレビとの連携企画は見られず、昨年もわずか2社のみの実施にとどまった。
だが今年は再び各社が熱を帯びている。艾媒諮詢(iiMedia Research)の張毅CEOは、「流量争奪が白熱化し、ユーザー数が伸び悩むなかで、限られた注意力と可処分時間の奪い合いが激化している。テレビ特番は短時間で巨大な話題を生み出す“トップコンテンツ”として有効だ」と指摘する。

さらに張氏は、「消費者が単純な値引きに飽き、感情価値を求めるようになっている。特番を通じて“祭りの高揚感”を演出することが、購買意欲を喚起する手段になっている」と分析。抖音が「美好奇妙夜」や「青春聯歓会」など複数のライブイベントを立て続けに開催しているのも、こうした狙いによるものだという。

「演唱会経済」とブランドの共鳴

コロナ禍後、中国では「演唱会経済(コンサート経済)」が急成長し、若年層から中年層まで幅広く支持を集めている。張氏は「ダブル11特番もその延長線上にあり、視聴者の感情を刺激し、ブランドへの好感度を高める効果がある。プラットフォームの個性や世界観を映し出すことで、ユーザーとの情緒的なつながりを強めることができる」と語る。

「流量イベント」から「ブランド叙事」へ

かつてのダブル11特番は、単なる購買促進のための導線に過ぎなかった。しかし今では、プラットフォームの“仮想生態系”を構築する中核装置へと進化している。番組は「ブランドの舞台」であり「流量の分配センター」、さらに「データ工場」と「ブランドストーリーテリング」の融合体でもある。目標はもはや視聴率や当日の取引額(GMV)ではなく、ユーザーとの持続的なブランド好感度の形成にある。

「後流量時代」の最終戦

2025年、EC各社はマーケティングへの投資を大幅に拡大している。張氏は「これは“後流量時代”におけるブランド心智(ブランドイメージ・認知)をめぐる最終的なポジショニング戦だ」と述べる。競争の軸は単なるアクセス数ではなく、ユーザーの心理的ロイヤルティに移りつつある。

今や消費者はダブル11に合わせて一斉に買う習慣を弱め、必要なときに購入する“按需消費”へと移行している。価格競争の優位性が薄れるなか、ブランドの物語性や感情的共鳴こそが、ECプラットフォームが次の時代に築く「護城河(競争の堀)」となりそうだ。

(中国経済新聞)