「在宅レストラン」が人気に 出張シェフが家庭の食卓に新たな彩り

2025/11/19 08:30

昼下がりの山东省煙台市。90歳の誕生日を迎えた趙金栄さんの自宅には食欲をそそる香りが漂い、統一のユニフォームを着た2人のシェフが手際よく作業を進めていた。ウニの茶碗蒸しや黄魚(キグチ)の春巻きなど、彩り豊かな料理が続々と食卓に並ぶ。この日、娘の張麗英さんが予約したのは、出張シェフサービスだ。

シェフ2人は食材を持参して訪問し、1人はタラバガニをご高齢の方でも食べやすいように丁寧にほぐし、もう1人はワサビ風味のエビ団子にライムや香椿(シャンチュン)の芽、三色スミレを添えるなど、盛り付けにもこだわった。

「90年代生まれ」の出張シェフ・牟磊(ムー・レイ)さんは、以前は飲食店の料理長として働いていたが、2022年に出張料理へと転身し、シェフチームを立ち上げた。予約は主にSNS経由で、誕生日祝い、結婚祝い、引っ越し祝い、合格祝い、企業の懇親会など幅広いニーズに応えている。

「家での宴は“最も大切な人”への気持ちが込められています。お客様が増えているのは、家族の団らんをもっとゆっくり楽しみたいからでしょう。最近は予約が常に埋まっていて、同業者も増えています。業界には明るい未来を感じています」と牟さんは話す。

山東省済南市では、「80年代生まれ」の会社員・黄穎さんが、両親の結婚記念日に魯菜(山東料理)の出張シェフを依頼した。「両親は昔ながらの魯菜が好きですが、有名店は行列が多く、年配の2人には負担が大きいので」と話す。出張シェフが作った九転大腸や四喜肉団子といった伝統料理は、家族全員に大好評だった。

「これはただの食事ではなく、まったく新しい“食卓体験”です」と黄さん。家庭料理の温かさとレストランの上質さを両立できる点が、質の高い暮らしを求める層に受けているという。

共同購入サービスやフードデリバリーが定着する中、出張シェフは生活サービスの新たな成長市場として注目されている。専門チェーンや家政企業、高級レストラン、独立シェフなど参入するプレーヤーは増加。オンライン予約プラットフォームの普及により、北京や上海といった大都市から、地方都市へとサービスが広がっている。北京では胡同文化を取り入れた“新京料理”、成都では家庭向け出張火鍋、杭州では西湖茶宴、青島では海鮮をそのまま家庭へ届けるメニューなど、地域ならではの特色も生まれている。

調査会社の報告によれば、この2年で出張シェフ市場は急成長しており、AIによるメニュー提案など新技術もサービスの利便性向上に貢献している。

出張シェフがもたらしているのは、家庭の食卓における利便性や温かな時間だけではない。“家にいながら外食気分を味わう”という新しいライフスタイルが広がるなか、人々は「家」という空間への愛着や、「味」が運ぶ幸福感をより豊かに感じ始めている。

(中国経済新聞)