甘粛省の旅④:張掖の「塞上江南」と五彩の丹霞地貌

2025/08/15 07:30

甘粛省の旅4日目は、嘉峪関市から車で2時間半ほど走り、張掖市に到着した。荒涼としたゴビ砂漠の風景は一変し、目の前には青々としたトウモロコシ畑や水田が広がる。遠くに見える祁連山の頂には白い雪が輝き、山腹は色とりどりの層状の地形を呈している。まるで乾燥した絶望的な砂漠地帯から一気に緑豊かな江南の地に迷い込んだかのようだ。

張掖市は、青蔵高原とモンゴル高原が交差する「河西回廊」の中央に位置し、標高1800メートル以上の高地にある。「塞上江南(西北の江南)」として知られ、シルクロード経済帯の重要な拠点都市である。雪山、草原、丹霞地貌、湿地など多様な自然景観が共存し、観光資源に恵まれている。

西漢時代(紀元前111年)に設置された郡以来、シルクロードの商業の要衝として栄え、現在も大仏寺(西夏の皇家仏教殿堂)や馬蹄寺石窟など文化遺産と名所が残る。4000年以上の居住史と2000年以上の都市史を持つ国家歴史文化名城である。

張掖市長葉爾波力氏に会った。葉爾波力市長は新疆出身のカザフ族人、2024年、張掖市長に就任した。葉爾波力市長によると、張掖市の常住人口は110万人で、38の少数民族が暮らす、特に裕固族は張掖市固有の少数民族である。地理的に重要な位置にあり、国家の「両屏三帯」生態安全障壁の重点地域に指定されている。祁連山脈の半分が張掖市内にあり、全国第2位の内陸河川である黒河が流れ、61.8万畝(約4万ヘクタール)の黒河湿地国家自然保護区を形成している。

鉱物資源とエネルギーも豊富で、四凸棒石粘土鉱の埋蔵量は全国の63%以上、タングステンやモリブデンの埋蔵量は中国北部で最大である。クリーンエネルギーの開発可能量は9700万キロワットを超え、新エネルギー発電の総容量は580万キロワットで、「グリーン電力」が78.5%を占める。張掖は河西回廊の特大規模クリーンエネルギー基地の一翼を担い、甘粛省のグリーン水素生産および総合利用の先行モデル地区に指定されている。

地貌は多様で、海洋を除くすべての地形が揃う。祁連山大草原は「中国で最も美しい六大草原」の一つに選ばれ、張掖市は「中国優秀観光都市」の称号を獲得している。農業も高品質かつ効率的で、光、熱、水、土の資源が絶妙に調和し、天然の「緑の大農場」「有機牧場」を形成。全国最大の雑種トウモロコシ種子生産加工基地、全国重要な穀物・油料・野菜の生産および種子改良基地であり、全国のトウモロコシ種子の2粒に1粒が張掖産である。2024年のトウモロコシ種子ブランド評価額は192億元(約3944億円)に達した。また、全国第6位の野菜供給基地であり、牛や羊の畜産業も盛んである。

張掖を訪れたなら、張掖丹霞世界地質公園は必見である。この公園は祁連山中段北麓の低山丘陵地帯に位置し、面積約517平方キロメートル。中国北部の乾燥・半乾燥地域で最も典型的な丹霞地貌と、カラフルな丘陵景観が融合した国内唯一の複合地形である。色鮮やかな地層、交錯する層理、壮大なスケールで知られ、観光価値と地質研究価値が高い。

2005年、中国地理雑誌社と全国34の主要メディアによる「中国で最も美しい場所」選出で、「中国で最も美しい7大丹霞」の一つに選ばれた。2009年には『図説天下国家地理』で「奇険霊秀美如画—中国で最も美しい6つの奇異地貌」に、2011年には『ナショナルジオグラフィック』誌で「世界の十大神奇地理奇観」に選出。2015年には「世界の25の夢幻旅行地」に名を連ね、2020年には国家5A級観光景区および世界地質公園に認定された。現在、世界自然遺産と世界級観光景区への登録を目指している。映画『太陽照常升起』(姜文監督)、テレビドラマ『神探狄仁杰』(第3部)、『三槍拍案驚奇』(張芸謀監督)、『一個都不能少』(白永成監督)など、多くの作品がここで撮影された。

張掖のもう一つの見どころは、一千年前の西夏国皇家寺院である大仏寺。西夏崇宗永安元年(1098年)に創建されたこの寺は、元々「迦葉如来寺」と呼ばれ、釈迦牟尼の涅槃像が安置されていることから「大仏寺」と通称される。敷地面積は6万平方メートル以上で、全国唯一の西夏皇家寺院である。国内最大の西夏仏教建築である大仏殿、アジア最大の室内木胎泥塑臥仏、全国で最も保存状態の良い初刻初印本『大明三蔵聖教北蔵』が残り、全国重点文物保護単位に指定されている。

張掖では、中国工農紅軍西路軍記念館も訪れた。この記念館は高台県にあり、元々は高台烈士陵園として、紅西路軍が河西回廊で戦い、高台で壮烈に犠牲となった紅五軍軍長の董振堂や政治部主任の楊克明ら3000人以上の革命烈士の遺骨が埋葬されている。

1936年10月、紅軍一、二、四方面軍が甘粛省会寧で勝利裏に会師した後、中央軍委は紅三十軍、五軍、九軍、四方面軍本部の計2万1800人による西路軍を編成。黄河を渡り、寧夏戦役計画を実行し、ソ連との国際連絡路を開く「新たな作戦計画」を遂行した。しかし、河西回廊で国民党軍10万人以上と壮絶な戦闘を繰り広げ、過酷な突囲戦で壊滅的な損失を被った。最終的に約400人だけが陝北の延安に到達し、2万余人以上が犠牲、行方不明、または捕虜となった。新中国の建国を支えた彼らの犠牲は、今も記念館に刻まれている。

張掖は、「西北の江南」と称される緑豊かなオアシスであり、シルクロードの歴史と文化、自然の奇観が融合した魅力的な都市である。張掖丹霞世界地質公園の五彩の地貌、大仏寺の歴史的遺産、紅西路軍記念館の革命の記憶は、張掖が持つ多面的な魅力を象徴する。祁連山や黒河の自然環境、豊富な資源、効率的な農業基盤とともに、張掖は甘粛省の観光と経済の中心として、今後も注目を集めるだろう。

(文:徐静波)

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。