6月に入り、中国からの訪問団の接待に追われている。市長が4名、企業の視察団2社が相次ぎ訪日した。
中国は経済の減速による悪影響が一段と鮮明になり、民間企業の経営が苦しくなった上に、地方政府の歳入も大幅に減っている。
中国の社会で、①大都市の会社員が弁当持参で出勤、②地方政府で違法な経営や脱税行為をした企業に対する罰金額が上昇、③水道代や電気代、天然ガス代が値上がり、という三つの現象が生じている。
中国財政省の発表では、2024年1~4月、地方政府の一般歳入額は2023年同期の0.1%増で、うち4月は2.5%減であった。つまり地方政府が一段と歳入減に陥った一方、一般庶民や企業の負担も減らず、むしろ重くなっている。
浙江省や広東省の飲食業経営者何人かと話をした際、「今は庶民的な店はまずまず順調だが高級な店は客足が鈍り、1人当たりの消費額は100元程度にとどまっている」と聞いた。
こうした現象は、日本でバブル崩壊後、居酒屋が好調となった一方で料亭が次々と閉店したのと同じであり、豪勢な飲み食いは減る一方なのである。
私は中国の飲食業関係者を率いて、東京の飲食事情を見て回った。そこで、東京には中国料理店が多く、依然として大きなマーケットになっており、訪れる客は中国の富裕層に偏る傾向が強まっていることが分かった。彼らは日本で会社を立ち上げ、「経営管理」または「高度人材ビザ」により東京で仕事や生活をしている。毎日日本料理を食べたりはせず、留学生とは違って日本語もうまくはないので、中国の料理を食べ、中国語での付き合いが中心である。また知り合いも多く付き合いも多い。中国人は人に食事をごちそうするのが好きで、1人平均1万円といった中堅クラスの中国料理店は彼らにとって魅力十分なのだ。このような店は現在、東京では結構少ないのである。
しかるに、中国に行った際、多くの人から東京の繁華街でレストランを開ける場所を探してほしいと頼まれた。中国は消費が落ち込んでいる故に海外での活路を考えているようであり、また日本で店を持てばビザが手に入り、社会保険や医療制度も利用できるようになって、明るい将来への期待が生まれる。
ビジネス関係者に海外での成長を促すという、「海外進出」は中国で今、関心を招いている。国内で消費が低迷し生産過剰といった問題が出ているためであり、さらにこのような経済の減速や消費の低迷がどこまで続くのか予想がつかない状態である。
ただし、「海外進出」は容易なものではない。まず費用面で、国の資金援助などはなくすべて自腹を切ることになる。それだけの金をはたいて海外に工場を造れる民間企業は多くはない。また、中小企業の場合は海外市場についてまるで知見がなく、仮に予算があっても事業の進め方がわからない。
中国政府や企業の視察団が続々と日本を訪れているのは、こうした大きな背景が存在しているからだ。
日本でも、バブル崩壊後の1990年代に多くの企業が「海外進出」をし、生産や加工拠点を中国など発展途上国にシフトして、安価な人件費や原材料に頼って操業を始めた。日本は現在、海外進出している企業の数は7万社余りで、そのうち半分が中国に立地している。これに政府系の海外投資も加えると、海外での資産総額はGDPの総額にほぼ匹敵するものになる。すなわち、日本の外に「もう一つの日本」があるのだ。
こうした日本の成功事例に、中国政府も関心を寄せている。日本のやり方をまねて、企業に「海外進出」を促し、「もう一つの中国」を造りたいのだ。こうした努力は注目すべきものだが、資本が流出して国内産業が空洞化する事態も念頭に入れなくてはならない。
中国にとって「海外進出」は、諸刃の剣なのである。
(文:徐静波)
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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。
講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。
日本記者クラブ会員。