経済再建をはかる中国の勇気が見えた

2024/04/5 13:00

3月上旬、北京で全人代=「全国人民代表者大会」を取材した。

 年に一度の全人代は、世界から目が向けられる。政界のトップが公の場に勢ぞろいする貴重な場であり、最高指導者や指導部の全メンバーの姿が見られる上、社会のエリートが国をつかさどる政治的活動に加わり、「人民の代表」が国策を定め管理するプロセスに参画するからだ。さらには、中国の政治や経済を直接知ることのできる場であり、取材を通じて様々な角度から「今の中国」を観察し、理解する場でもある。

 全人代は、報告の発表、予算案など重要な議案の審議、採決という三つのステップで開催されるが、会期が短いので、会議としては審議よりも象徴的な意味合いのほうが強い。

 今年の全人代は、コロナ禍を脱して大変オープンなものになり、取材を許可された記者はほぼ以前のように人民大会堂を自由に出入りし、様々な記者会見に臨めるようになった。

 ただし今回は例年と比べ、かなりの変化もあった。

 まず、大会閉幕後の「首相記者会見」が廃止された。

 「首相記者会見」はこれまで全人代のハイライトであり、記者が直接首相に質問し、その場で首相が答えるもので、所要時間はほぼ2時間であった。テレビで生中継されていたので、世界的に注目度も高く、首相自身の政権理念や思考力が示されるものでもあった。したがって、「開かれた中国政治」の象徴的な場面ともなっていた。

 ところが今回、全人代の報道官が「廃止する」と宣言した。その理由を説明することもなく、かなり異例の事態であり、随分と憶測も招いた。

 また、会期が大幅に短縮された。例年はおよそ半月間であったが、今年はその半分以下となるわずか7日間であった。

 それと、報道陣では、アフリカ、中東、南米など発展途上国の記者が増えた。

 またその西側諸国の中で記者の数が最も多かった日本は、外相の記者会見で質問の機会を与えられなかった。逆に韓国は質問をすることができたので、日本のメディアの存在感が初めてゼロになってしまった。ある意味で、冷え込んでいる今の日中関係を象徴したものとも言える。

 中国経済が大きく減速している中、今回の全人代の最大の焦点は、景気の回復に向けてどのような策を打ち出せるか、ということであった。よって、開幕式における李強首相の政府活動報告は大変注目された。

 はたして中国政府は、これからどのような策を講じるのか。

 一、1兆元規模となる超長期の特別国債を引き続き発行する。二、「新たな質の生産力」を成長させ、新興産業を大きく育て、新たな質の都市、インフラ、産業、企業、人材、資本を合わせて推進する。三、「低空経済」を開放化し推進する。四、「下取り」の実施で設備や家電、自動車などの消費財を入れ替え、内需を拡大する。このような発表内容だった。

 中国政府は、これらの策を実施することで、2024年のGDP成長率を5%前後という高い水準にすることを願っている。

 李強首相が政府活動報告で指摘した通り、中国は今、国内外で問題を抱えている。国際的には、世界経済の回復が力強さに欠け、地域紛争が激化し、保護主義、一国主義が進み、外部環境が中国の発展にもたらす影響がますます強まった。国内においては、3年間続いたコロナ禍で経済の回復自体に多くの難題が生じ、長年の潜在的な問題がにわかに顕在化し、加えて新たな状況や問題が次々と生じた。外需の低迷と内需の不振が同時にみられ、周期的問題と構造的問題が併存し、一部の地域で不動産、地方債、中小金融機関などのリスクが顕在化した。

 つまり中国経済は、改革開放から40年余りが過ぎた今、極めて厳しい状態に置かれている。今回の全人代では、厳しい中でも経済対策を施し、国民を支援するという中国政府の勇気や実行策が見えた。世界経済を牽引し、世界の成長に不可欠な存在である中国に対し、批判するより協力するほうが大事である。

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。