外国人は果たしてどこへ

2024/03/1 11:30

中国の春節は、母の住む浙江省の実家で過ごした。

私の実家は中国最大の群島型都市である浙江省舟山市で、かつて遣唐使が東シナ海を渡って最初にたどり着いた地である。奈良市の唐招提寺を建てた中国の高僧・鑑真は6度にわたり日本への渡航を試み、うち5回は舟山で遭難、または短期間滞在した。舟山にはまた、やはり唐の時代に日本の僧・慧萼が建てた中国最大の観音道場——普陀山がある。

2023年、舟山市のGDP成長率は中国平均の5.2%をはるかに上回る8.2%だった。高成長を続けている要因は大規模なコンビナートが存在しているからであり、大きな島自体が国際規模の化学工場になっている。

ただ2024年は、投資が大幅に減ったことでGDP成長率は6.5%に下がった。

中国経済の目下最大の問題は、輸出の低迷である。国内需要に元気がなく、庶民が財布のひもを緩めない。これがそのまま深刻な生産過剰につながっている。よって、地方政府も中央政府も予算不足であり、大規模な公共事業で経済成長を引き起こそうとしても、もはやそれだけの力もない。

これこそ中国経済の懸念事項である。

私は日本に戻る前に、上海で一番賑やかな南京路に行った。東京でいう銀座のような所である。

春節の3日目、南京路には大勢の人が繰り出していた。人民広場から南京東路に沿って外灘(バンド)までおよそ2.5キロを歩いた。20万人ほどいたようだが、外国人はわずか4人、すべてロシア人だった。

その翌日は蘇州の寒山寺に行った。やはりかなりの人出だった。1時間あまり境内にいたが、目にした外国人はアフリカからの留学生2人のみで、日本人らしき人も見なかった。

Wechatで「外国人は果たしてどこへ」という動画を配信したところ、1日で閲覧数が120万人を超えた。だれもが「外国人は果たしてどこへ」と尋ねていた。

中国最大の観音道場——普陀山

中国はコロナの渦中で厳しい「ゼロコロナ策」を実施し、上海など主な都市ではとりわけ厳格な措置を講じた。外国人からすれば、異常なまでの行動制限であり、人権侵害に相当するものだった。こうした反感で多くの人が上海を去り、中国を去って、二度と帰らなかった。

また日本人は、「スパイ事件」で中国への渡航に恐れを感じ、ひとたび中国に行けば帰国できなくなると思うようになった。さらには中国政府が「対等外交」を強調し、ビザなしでの受け入れを回復していないことで、手続きも厄介になり、渡航を望まなくなった。

中国政府は、広く受け入れようとしているヨーロッパの各国にビザなし待遇を実施しているが、2番目の貿易相手先である日本に対しては再開を渋っている。日本との経済協力を強化すべきと繰り返し強調してはいるが、実際にはビジネス関係者の往来はコロナ禍前のように便利でなく、日本からすれば、協力を「強化」しようとする中で中国に対し感情的な軋みが生じている。

2023年、中日両国の貿易総額は3180億ドルで、不振だった2022年よりさらに10.7%も減った。日本によるハイテク関連の部品や機器の中国への輸出制限もその理由の一つであり、さらには日本企業が中国から撤退する動きも見える。

中国最大の観音道場——普陀山

したがって、外国人を中国に呼び戻して、その後さらに安全で安心、自由を感じてもらうようにすること、これは中国の観光業だけでなく、外国企業の中国での事業存続の有無に関わる大きな問題であり、中国の開放や発展、さらには中国という共同体の一員になれるか、といった問題にも関わる。

経済が疲弊している中国は今、さらに開放し、どんどんと世界を受け入れて、より多くの外国人や外国企業を呼び寄せて順調なスタートが切れるように、できる限りの支援をすべきだ。そうなれば南京路にも一段と多くの外国人が現れ、中国経済の回復も進むことになろう。

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。