浮かれていていいのだろうか?!

2023/06/6 13:30

G7広島サミットが終わった。

ウクライナのゼレンスキー大統領の「電撃」参加に沸く開催地広島。随所で満面の笑みをたたえる岸田首相。

サミット閉幕から時を置かず21日夕方、毎日新聞は早速「岸田内閣支持率45%、前回から9ポイント上昇」と、20、21日両日実施の世論調査結果の速報を流した。「ゼレンスキー効果」も相まって、まさに「G7」の高揚感が日本列島を覆っていると言える。

がしかし、ほんとうにそれでいいのか、「浮かれていていいのだろうか」という問いが重く胸の奥底に響く。

岸田首相はサミット開幕を前にしたメディアのインタビューで改めて「ロシアによるウクライナ侵攻を許さない」と語るとともに「歴史的転換期」という認識を強調した。「国際的な秩序が大きく揺るがされている」として「法の支配に基づく国際秩序の重要性」を力説し、「エネルギーをはじめ、食料など、国際的な規模の大きな危機にどう対処していくのかが迫られ、大事な時期にある」と述べて「国際社会のありようは歴史的な転換期を迎えている」と繰り返し強調した。

そこで問われるのは、何をもって「歴史的転換期」とするかである。

一体どういうことか?

「ウクライナ侵攻」という事態を踏まえればロシアが俎上に上るのは当然のこととして、しかしそれ以上に、中国が今回のサミットの「主役」となった。これほどまでに徹底して中国を俎上に挙げ、「G7VS中国」の構図を描いて見せたサミットは過去に例を見ない。これをもって「歴史的転換期」と言うべきなのか、それを先導したのが日本であり岸田首相だということ、ここが実に深刻なのである。

「首脳コミュニケ」とテーマ別セッションにおける「首脳声明」を詳らかに読んでみる。

まず「G7のパートナーとして、それぞれの中国との関係を支える以下の要素について結束する」としたうえで「中国に率直に関与し、我々の懸念を中国に直接表明することの重要性を認識しつつ、中国と建設的かつ安定的な関係を構築する用意がある」と述べる一方で「東シナ海及び南シナ海における状況について深刻に懸念している。力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」、さらに「国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する」と台湾にも踏み込んだ。さらに、「チベットや新疆ウイグルにおけるものを含め、中国の人権状況について懸念を表明し続ける」と述べるとともに「香港における権利、自由及び高度な自治権を規定する英中共同声明及び基本法の下での自らのコミットメントを果たすよう求める」として香港についても注文を付けた。「ウクライナ問題」にかかわっては、「ロシアが軍事的侵略を停止し、即時に、完全に、かつ無条件に軍隊をウクライナから撤退させるよう圧力をかけることを(中国に)求める」というのである。

その一方で、「我々の政策方針は、中国を害することを目的としておらず、中国の経済的進歩及び発展を妨げようともしていない。成長する中国が、国際的なルールに従って振る舞うことは、世界の関心事項である。我々は、デカップリング又は内向き志向にはならない。同時に、我々は、経済的強靱性にはデリスキング及び多様化が必要であることを認識する」と語る。しかし、「経済安全保障」に関するセッションでの議論も合わせて読むと、「世界経済を歪める中国の非市場的政策及び慣行がもたらす課題に対処することを追求する」「不当な技術移転やデータ開示などの悪意のある慣行に対抗する」「経済的威圧に対する強靱性を促進」するとともに「国家安全保障を脅かすために使用され得る先端技術を、貿易及び投資を不当に制限することなく保護する必要性を認識する」として、経済的依存関係を武器化する「経済的威圧」に対応するための新たな枠組「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」を創設し、中国を抑止していくことで合意したというのである。

これらとは別に、「自由で開かれたインド太平洋の重要性を改めて表明する」として、項目を立てて述べていることも忘れてはならないだろう(いずれも日本政府G7Webサイト「仮訳」による)。

俗な物言いで恐縮だが、強烈に顔を張り倒すかと思えば、やっぱりあんたとは「協力」もしなければね、と「おためごかし」を言いながら「揉み手」して見せるという、なんともやりきれない対中国「抑止」のサミットだったことが見えてくるのである。これで怒らない人間がいたら会ってみたいというべきものである。案の定、中国外交部はコメントを発表して「G7は中国側の深刻な懸念を顧みず、頑なに中国関連議題を煽り立て、中国を中傷・攻撃し、中国の内政に粗暴に干渉した。これに対し、中国側は強い不満と断固たる反対を表す」と訴えた。 

メディアに登場したウクライナ問題が専門の国際問題研究者が「驚いた」と素朴に語ったゼレンスキー大統領の「電撃的」来日も、中国への対抗という文脈で吟味すると、もう一つの本質が透けて見えてくる。

「ゼレンスキー来日」は当初「フィナンシャルタイムス」と「ブルムバーグ」がいち早く伝え、その後ロイター、「ニューヨークタイムズ」など外国メディアも速報で追った。日本への移動手段として「ブルムバーグ」は「アラブ連盟首脳会議出席でサウジに立ち寄った後、米軍用機で日本に」と伝えたが、後を追う形になったロイターは「フランス政府機で日本へ向かう」とした。その後「当初は米軍機でということだったが、それではあまりにも中国、ロシアを刺激することになるとして、中国、ロシアとも関係の深いフランス政府機に代わった」(NHK国際部記者)と解説された。すなわち米国の指嗾の下で米日連携によって周到に準備されていたことが透けて見えてくる。「ニューヨークタイムズ」は「BREAKING NEWS」として伝えたなかで「ウクライナ支援に消極的なインドやブラジルなどの首脳もオブザーバーとして会議に参加しており、ゼレンスキー氏の存在によって、その姿勢を続けることが難しくなる可能性もあると、複数の関係者は指摘」と書いた。いわゆる「グローバルサウス」、もっと正確に言えば米国にまつろわない「非米世界」にくさびを打ち込み、そうした「非米世界」への影響力を強める中国への対抗力を高めるという米国の「狙い」を背後に隠しながら周到に準備した来日だと読み解ける。中国がゼレンスキー大統領に示した「和平」への提案を無化しようという狙いは言うまでもない。

こうして見てくると、今回の「サミット」はひたすら中国に対峙するためにあったと言っても的外れではない。この間、岸田首相および政権は「サミットが終わったら日中関係に手を付ける」という「話し」が複数の筋から伝わってきた。しかし、これで一体どう中国との関係を改善していけるというのだろうか。

「これでは経済も心配ですね…」。今回のサミットにかかわって、日中経済界で長く枢要な仕事を重ねてこられた先達と話していて、深いため息交じりの危惧が漏れた。「政冷経熱」どころか「政冷経冷」の厳しい日中関係に入るのではないかという懸念を抱くというのである。

今回の「G7」を経て、いままさに日中関係は歴史的な「分かれ道」に立つことになった。事態は深刻である。浮かれている場合ではないのだ!

(文・木村知義)

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【筆者】木村知義(きむら ともよし)、1948年生。1970年NHK入社。アナウンサーとして主に報道、情報番組を担当。1999年から2008年3月まで「ラジオあさいちばん」(ラジオ第一放送)のアンカーを務める。同時にアジアをテーマにした特集番組の企画、制作に取り組む。退社後は個人研究所「21世紀社会動態研究所」で「北東アジア動態研究会」を主宰。