アメリカのトランプ大統領が仕掛けた米中間の関税合戦で株式市場が世界的に揺れ動き、世界経済に対する心配感が募っている。
ところが、こうしたショッキングな事態を前に中国外務省は、145%という超高額な関税に対し「アメリカが執拗に続けるなら中国はとことん戦う」と言ってのけた。
中国は、トランプ氏前政権時代にも貿易摩擦を仕掛けてられいたことから、こうした事態に「免疫力」がついている。
中国はその前回の争いで、減税や補助金支給、そして東南アジア経由でのアメリカ輸出という「迂回作戦」を講じて、屈することなくどうにか乗り切る意地を見せた。
ところが今回は様相が違う。トランプ氏は世界規模で作戦展開しているように見えるが、実際には中国を相手にしており、多くの中国企業が進出しているベトナムやインドネシアなどへの関税率も46%まで引き上げた。このため現地中国企業は前回のような迂回作戦が利かなくなり、海外の中国企業は出口を塞がれた形になってしまった。
上海の情報では、洋山港でアメリカに輸送するコンテナが山積みになっているという。アメリカでは、高額な関税を嫌がって中国の製品を受け入れない企業が出ている。国際航路の中で米中間のルートはドル箱であるが、現在は航行停止状態という。船運だけでなく空の便も流れが悪くなっている。中国からアメリカへ小包を送る場合は最高で200ドルの関税がかかり、拼多多やタオバオなどの中国の通販事業者は現地市場の開拓が難しくなっている。
よって、中国からすれば、今回の米中間の関税戦争で発生した貿易摩擦で、まず損をするのが貿易や海外展開をする会社である。東南アジアでは工場建設が開始直後に止まった例もあり、慎重な姿勢を見せ始めている。
深センで貿易商社を営む李さんは、「アメリカの相互関税でコンテナ三台を失った。契約も結んでいたのだが。今回の関税で、数十人の社員を養っていけるか危うくなってきた」とこぼした。
また、広州でアパレル品を輸出している鄭さんも、「トランプ大統領が高額の関税をかけてから、アメリカ向けの品が建屋にどっさりたまっている。1回の受注量もこれまでの数万着から半分に減ってしまった」と言う。今回の追加関税で会社もつぶれそうだ、とのことである。
しかし中国政府は今回、七年前よりもずっと腰が据わっている。アメリカからの輸入品について同等となる125%の関税を課すと即時に発表したほか、アメリカ企業をエンティティリストに加えた上、サマリウム、ガドリニウム、テルビウムなどのレアアース類の輸出規制など、様々な対抗措置も発表している。
中国は今回、「穏便作戦」を採らず、「真っ向対決」を挑んでいる。
このような強硬姿勢を講じている理由は、簡単に言えば中国の産業チェーンが十分に強くなり、整備されているからだ。
アメリカの農家のグレッグさんが動画サイトのTitokで、「関税が空まで達しても中国の農機具代はアメリカの半額だ。やっぱり中国のものを買いたい」と語った。これに対して「売国奴だ。愛国心がない」などのコメントが殺到した。そこでグレッグさんは、「アメリカの種まき機は4万ドルで、同じタイプの中国品は関税込みで7000ドル。アメリカの除草機は見積額2万8000ドルで、中国品は搬送代込みでも9000ドル」との価格リストを公表している。
またアメリカでは最近、各地のスーパーマーケットで「中国品の奪い合い」が見られ、この中でテレビが一番人気になっている。
品数も多く、安値で質もいい。中国の産業チェーンは今、アメリカをはるかに上回っている。
このためトランプ氏の今回の追加関税では、中国だけでなく、中国品に依存しているアメリカの企業や一般庶民も痛みを感じることになる。
中国が今回、一段と強気になっている別の大きな理由は、産業チェーンを整備し拡大したことでトランプ氏の「すべて撃破する」という目論見をある程度崩したからである。
最近、ギリシャの元財務大臣で経済学者であるヤニス・バルファキス氏は、BBCの取材に対し、「トランプ氏の今回の関税導入は事実上、『分裂作戦』だ」と述べた。
言い換えれば、トランプ氏は関税を持ち駒にして同盟国を屈服させ、アメリカの製品をもっと使ってもらうか、工場をアメリカにシフトさせる契約を結ぼうとしているのだ。
しかし問題なのは、中国が今、製造業が台頭して2024年の輸出量は世界の16%、製造業は同じく30%を占め、アパレル品から高額なバッテリー、5G機器、携帯電話まですべて作れるようになっており、世界のサプライチェーンの「心臓」として粘り強さを示していることだ。
テスラは電池や部品の40%を中国から仕入れ、アップルはiPhoneの部品の七割を中国に頼り、ドイツのVWは2024年、中国から600億ユーロ分の部品を購入している。
アメリカの同盟国は経済面で中国にべったりの状態であり、中国からの仕入れをやめれば生産ラインが止まり、製造コストも重くなってしまう。よってアメリカとの道連れを選ぶはずもない。
世界の電子機器市場を見ると、テレビでは2024年、中国のTCLがシェア12.6%で二位に立ち、LGが三位に転落した。TCLはまた高額のテレビについて、第一人者だったソニーを相手にMiniLEDの技術をバックに強引な突破口を切り開いた。2024年に、ソニーの同サイズ品A95K OLEDより値段は30%安く画質の差は10%以下という115インチのMiniLEDテレビを打ち出している。
TCLは日本で、80インチ以上の高級テレビで市場シェア15%を獲得し、ソニーは2023年の20%から13%にダウンし順位を落とした。
まともに言えば、今の中国製品は、これまでのような安価な労働力に頼り産業チェーンの末端側にある状態ではなくっており、このような高級な品物はどれほど関税が高くても、技術力を備えて利益も出るもので、人気は衰えない。追加関税の効果も薄くなってくる。
今回の追加関税では、実は米中双方とも「互いに傷つけ合う」部分が存在している。
中国では、繊維製品や玩具など、安物製品を輸出している多数の企業はつらい立場に置かれる。利益分が少ないので関税がかかればほとんど利ざやがなくなってしまうからである。
だたし、機械や電子機器などアメリカがどうしても必要としている製品はすぐには後退しない。レアアースも同様で、中国からの輸入が止まればF-35戦闘機が作れなくなってしまう。
米中両国はがっぷり四つではあるが、長い目で見て、独立性が強く他方への依存度が少ない側が最後まで持ちこたえられるというものである。
この点について、中国は産業チェーンの完成度や規模がもはや敵なしで、世界で唯一、国連の産業分類のすべてを手掛ける国になっている。世界の主要工業製品500品目のうち、中国は四割以上で生産量がトップである。
また強い製造体制を持つ中国は今、150以上の国や地域と貿易をしている。2024年、アメリカ向けの輸出量は、全輸出量の14%と少なくはないが「命脈」というレベルには遠い。
さらに中国は、内需や研究開発であらがう力もあり、傷ついても死には至らず、はねのける力も強い。
以上の点から、アメリカが中国を「いいなり」状態にするのは相当難しくなる。
これゆえに中国は鼻息も荒く、アメリカと「とことん戦う」ことも辞さない。白旗をあげるのは果たしてアメリカか、それとも中国か。