中国では、都市部と農村部の年金(養老金)格差が年々拡大しており、その差は人々の暮らしや社会の安定に直結する深刻な問題となっている。2024年時点で、企業退職者の平均月額年金は約3360元(約7万560円)、公務員退職者は6000元(約12万6000円)近くに達する一方、多くの農村住民はわずか240元(約5040円)にとどまっている。十数年の間、都市部の年金は何度も引き上げられたが、農村部の「老後の生活費」はほぼ据え置かれたままだ。
格差は単に都市と農村の間だけに存在するわけではない。まず、都市部の内部にも大きな差がある。同じ60歳で退職しても、国有企業の電力会社で働いていた張さんは月8200元(約17万2200円)を受給するが、繊維工場勤務だった陳さんは2800元(約5万8800円)しかない。国有企業には職業年金や補助金があり、これが格差を拡大している。
次に、最も顕著なのが都市と農村の差だ。2024年時点で240元(約5040円)という農村の年金は、都市部の最低生活保障(低保)基準の3分の1にも満たない。深圳の高齢者が年金でカルチャースクールに通える一方で、農村の高齢者は高血圧の薬を買うために朝食を抜くこともある。

さらに、地域間の差も無視できない。例えば青海省の退職教師は、上海の同年代の教師より月3200元(約6万7200円)も少ない。省レベルの年金調整制度が導入される前は、同じ県境近くでも所属する市や地区が異なるだけで、月の食費に匹敵する差が生じることもあった。
この格差を是正するための鍵は、安定した財源の確保である。専門家は、国有企業の株式1%を社会保障基金に移転し、年間約1兆元(約21兆円)を確保して農村部年金の引き上げに重点配分することを提案している。これは「国民から得た利益を国民に還元する」という公平の原則にも合致する。
加えて、年間5000億元(約10兆5000億円)の特別財政予算を新設し、農村年金を直接補助する案もある。これにより、約1億7000万人の農村高齢者の年金を月240元(約5040円)増やすことができ、年間1.2兆元(約25兆2000億円)の消費拡大効果も見込まれる。
さらに、都市・農村住民向けの年金保険料の拠出基準を引き上げ、「多く払えば多くもらえる」仕組みを徹底することや、土地流転や農業補助などによる収入向上策と組み合わせることも必要だ。2025年には基礎年金を月平均40元(約840円)引き上げる計画もある。
少子高齢化が急速に進む中国にとって、年金問題は今後ますます深刻になる。農村住民の年金を引き上げ、都市との格差を縮小することは、「共同富裕」政策の核心であり、社会の安定を左右する重要課題だ。格差の放置は、高齢者の生活困窮だけでなく、地域間・階層間の不満を増幅させかねない。
年金は単なる生活費ではなく、高齢者の尊厳と安心を支える柱である。その格差を埋める取り組みは、中国社会の持続可能な発展のための不可欠な一歩となる。
(中国経済新聞)