AMDスーCEO、中国向けMI308輸出を一部再開へ 

2025/12/5 12:30

米半導体大手AMDのリサ・スー(蘇姿豊)最高経営責任者(CEO)は5日、同社のAI向けチップ「Instinct MI308」の一部について、中国向け輸出の許可を米政府から取得したと明らかにした。輸出が実施される場合、同社は米政府に15%の税金を支払う方針だという。

スーCEOは、テクノロジー誌『WIRED(連線)』がサンフランシスコで開催した大型カンファレンスに登壇し、米中間の半導体規制からAI市場の現状と展望まで、幅広いテーマについて語った。

■ MI308の対中輸出を一部許可 15%課税も受け入れ

トランプ政権は8月、NVIDIAとAMDに対し「特定仕様のAI向けチップに限り中国への輸出を部分的に再開する」ことを認める一方、15%の追加課税を課す方針を示していた。今回のスーCEOの発言は、その枠組みが実際に運用されていることを裏付けるものとなった。

MI308の最終的な仕様はまだ確定していないが、米輸出管理規則に適合させるため、性能はNVIDIAの「H2O」AIアクセラレーターに近い水準に抑えられる見通しだ。

現在NVIDIAは、中国向け製品の米政府審査が停滞しているほか、中国政府が同社の技術スタックに慎重姿勢を強めているとされ、AMDは中国AI市場でわずかに優位に立っているとみられる。

ただしAMDは、MI308の売上を第4四半期の業績予想に織り込んでいない。中国市場は依然として不確実性が大きく、北京が国産化を強力に推し進める中では「短期的な改善は見込みにくい」との見方が根強い。

■ 「AIにバブルはない」——スーCEOが語る成長への確信

セッションの中で、AI業界にバブル懸念があるのではないかと問われたスーCEOは、「個人的にはまったくそうは思わない」ときっぱり否定した。

「AIは膨大な計算能力と、膨大な量のチップを必要とする。バブルだという懸念は、やや誇張されている」(スーCEO)

2014年の就任以来、AMDの時価総額を20億ドルから3,000億ドル規模に拡大させたスーCEOは、AIデータセンター分野への投資を同社の最重要戦略として位置付けている。

AMDは今年、OpenAIと大規模な供給契約を締結。今後数年にわたり、最大6GW分のInstinct GPUがOpenAIのデータセンターに導入される見通しだ。契約には、OpenAIがAMD株1.6億株を1株1セントで取得できる権利も含まれており、約10%の株式に相当する。

■ データセンター建設の加速と供給力が課題に

スーCEOは、世界的なAI需要の急拡大に伴い、巨大データセンターの建設ラッシュ、そして「需要に応じてどれだけ多くのチップを顧客に届けられるか」が最大の課題だと指摘した。

競争環境は激しさを増しており、NVIDIAに加えて、GoogleやAmazonといった大手クラウド企業も独自チップの開発を加速させている。しかしスーCEOは競争そのものへの懸念は示さず、「私が最も気にしているのは、『いかにイノベーションのスピードを上げられるか』という一点だけだ」と語った。

■ 「AIはまだ始まったばかり」

スーCEOはAI技術が今後さらに進化すると強調する。「現在のモデルも十分に優れているが、次世代はさらに良くなる。AIの可能性は非常に大きく、この技術を前に進めない理由はない」AIブームの追い風を受ける一方、規制強化や地政学リスクという逆風にも直面するAMD。スーCEOの舵取りの下、同社がどのように成長戦略を描いていくのかが注目される。

(中国経済新聞)