日本の自動車メーカーが、中国で苦しんでいる。
1978年、中国の鄧小平副総理が改革開放を決定する直前に来日し、日産自動車の工場を見学した。
当時の中国にはセダンが2車種しかなく、一つは国の指導者向けに造られた「紅旗」、もう一つは政府機関の公用車となる「上海」であった。
日産の近代的な組み立て工場を車で回った鄧小平氏は、ため息混じりに「中国ではまだ手作業なのに」と感じ、中国には高級車用の鋼板がないことにも気づいた。
そこで鄧小平氏は、新日鉄に対し、近代的な製鉄所の建設を支援するよう求めたほか、日産に対しても中国で工場を設けてほしいと言った。
そして日本側は、上海に宝山製鉄所を建てることで同意したが、日産は中国市場にまるで興味がわかなかった。理由は、「中国人の給料ではとても車が買えない」という単純なものだった。
中国は1978年当時、労働者の年間賃金は平均615元で、月給換算で51元だったが、日本は年間で260万円(約12.3万元)だった。この年、トヨタ自動車は3代目の「カローラ」を279万円(約13.2万元)で発売している。日本人なら1年分の給与で買えるものだったが、中国では飲まず食わずを200年間続けないと買えない値段だった。
しかし日産は当時、中国では車を買うのは決して個人ではなく政府機関や国営企業であるという大事なことを無視していた。
日本の自動車メーカーによる進出の兆しが見られない中国は、視線をヨーロッパに向け始めた。1983年5月には北京の吉普汽車がドイツのダイムラー・クライスラーとともに、初めての外資合弁の自動車メーカーを発足させ、「北京ジープ」の生産を始めた。1984年10月には上海汽車集団とドイツのVWグループが手を組み、上海で「大衆」を生産する。さらに1985年、広州羊城汽車がフランスのプジョーと合弁で、広東省で「標志」を作り始めた。
南部・中部・北部の3大都市で合弁事業が始まった中国は、セダンの製造事業が飛躍的に伸びていった。
しかし1992年、中国と台湾の関係が悪化し、あわや戦争という状態に陥った。そのさなかにフランス政府が、戦闘機の「ミラージュ2000」を台湾に60機売却すると発表する。これを受けた中国政府は直ちに、フランスと交渉中だったすべての大型プロジェクトを中止し、広州のフランス総領事館を閉鎖するという厳しい対応を示したほか、広州で生産していた「標志」について、政府機関の購入や中国での販売や宣伝を禁止した。
そして1997年、広州プジョーは破産するに至った。これに対してホンダが、1フランという形式的金額で広州プジョーの全株式と債務を買い取った。「広州プジョー」は歴史の舞台から退き、「広州本田」が登場したのである。
ホンダは、日系自動車メーカーの先陣を切って中国進出を果たした。
2008年、トヨタ、ホンダ、日産、三菱、マツダなど日系メーカーの中国での年間販売台数は中国の乗用車全体の30.8%を占める169万台となり、さらに2017年には463万台に増えた。
しかし、中国で電気自動車(EV)が急速に普及し始めたことで、ガソリン車中心の日本勢が苦境にはまってしまう。今年1-8月の販売台数は2023年同期と比べ、トヨタが10.6%、日産が9.8%、ホンダが27.2%それぞれダウンした。スズキは2018年に中国撤退を発表しており、三菱自動車も2023年に同じく撤退を発表した。
そして2024年、8月の時点で日系車のシェアは10.2%まで落ち込んでおり、年末には10%を割り込むと見られている。一方で中国産車のシェアは2023年より8.8ポイントも増えて66.4%に達している。
日系各社に残された道は2つ。一斉に中国に別れを告げるか、中国のEVと市場争いをするか、である。
劣勢を挽回するにはどうすべきか。
当然ながら、高い技術力を生かして高品質なEVを生産し、ハイブリッドカーにも力を入れることが、中国市場で生き残る唯一の方策である。
数か月前、ホンダが中国の2工場を閉鎖すると伝えられ、真っ先に「サヨナラ」するかと思われた。しかしホンダは意表をつくように10月11日、湖南省武漢に840億円(約40億元)をかけて EV生産に特化したスマート化工場を建設し、年間12万台を生産すると発表している。三部敏宏社長が自ら武漢でテープカットに臨み、「中国に高品質なEVを提供することで『喜びの拡大』を実現したい」とコメントしている。
ホンダはすでに、中国市場に合わせて事業を見直し、EVで中国メーカーと対抗していく道を歩み始めたのである。
また、世界最大の自動車メーカーであるトヨタも、中国で先駆けて全固体電池のEVを投入し、ハイブリッドカーにも力を入れる予定である。北米でEVの販売が伸び悩み、ハイブリッドカーがかなり売れるようになったことから、ふんだんにあるハイブリッドカーを頼りに中国で確実に足場を固め、ここ数年間下落した市場シェアを奪回できると信じている。
日本の自動車メーカーは中国をあきらめてはいないようだ。なにしろ膨大なマーケットなのだから。
(中国経済新聞)