中国の自動車修理市場は、かつて街角に溢れていた修理工場が厳しい試練に直面する中、深い変革の時期を迎えている。
「街を走る車は増え、しかも新車ばかりだが、修理に来る車は減っている」と、10年以上修理工場を経営する劉哲氏は語る。2010年前後、劉哲氏は成都市で小さな修理工場を開業し、2人の整備士を雇った。当時は自動車市場が急速に成長する黄金期で、4S店(ディーラー)のアフターサービスは高額だったため、コストパフォーマンスと利便性に優れる修理工場は多くの顧客を引きつけた。
客足が増え、経験を積むにつれ、劉哲氏の修理工場は急速に収益を上げた。開業後数年で経営が安定し、月間売上は最高10万元(約200万円)を超え、月間純利益は6~7万元に達した。その後、劉哲氏はより広い店舗を借り、従業員を10人に増やした。「好調な時期には、1日20台の車が修理に来ていた。年100万元以上の純利益を上げるのは難しくなかった」と振り返る。
しかし、この2年間、新エネルギー車(NEV)の市場が急拡大し、市場シェアの半分を占めるようになった。これにより、従来のガソリン車の整備需要が縮小し、市場競争の激化や情報透明化の進展と相まって、中国の自動車アフターマーケットは大きな変革を迎えている。劉哲氏の修理工場も含め、街角の修理工場は存続の危機に瀕している。

企業調査会社「企査査」のデータによると、2023年から2025年にかけて、中国の伝統的な自動車修理工場の数は18.7%減少し、42.3万軒から34.4万軒に縮小した。特に電気自動車の普及率が高い一線・二線都市では減少が顕著で、北京、上海、深圳などでは修理工場の数が25%以上減少した。新規の修理工場も減少し、自動車修理関連企業の登録数は2018年の11.11万社から2024年には3.18万社に激減した。
修理工場が大量に閉鎖する背景には、複数の構造的要因がある。
1、新エネルギー車の急増
新エネルギー車の爆発的な普及が、供給と需要の両面で伝統的な修理工場の生存空間を圧迫している。新エネルギー車の「三電システム」(バッテリー、モーター、電装制御)は構造がシンプルで故障率が低く、5台の新エネルギー車のメンテナンス需要はガソリン車1台分に相当する。これにより、修理工場の主要業務である定期点検、修理、板金塗装の需要が大幅に縮小している。
2、新エネルギー車市場の競争と技術的障壁
新エネルギー車市場では、自動車メーカーが4S店を優先する政策を打ち出し、修理業務を囲い込む傾向がある。また、新エネルギー車の修理には高い安全リスクや技術的難易度が伴い、多くの修理工場は参入をためらう。メーカー認証を取得するには相応の資格が必要で、店舗への投資は500万元(約1億円)以上、場合によっては1,000万元に達する。一般の修理工場にとって、この投資負担と長い回収期間、さらには不確実なリスクは大きなハードルとなっている。
3、「以旧換新」政策による新車置換ブーム
政府の「以旧換新」(古い車を新車に買い替える)補助金政策により、ガソリン車の早期廃車が加速している。修理が必要な時期にある多くのガソリン車が廃車となり、修理工場の顧客基盤が直撃を受けている。この構造的変化により、一部の修理工場の来店台数は前年比30%以上減少した。
4、保険事業の縮小
過去には、保険関連の業務が修理工場の収益の30~40%を占めていた。しかし、保険会社が支払いコストを抑えるため修理費を大幅に削減した結果、この事業の収益割合は一部の店舗で10%未満にまで低下している。
中国の自動車修理市場は、新エネルギー車の普及と市場環境の変化により、従来のビジネスモデルが通用しなくなっている。伝統的な修理工場は、新エネルギー車対応の技術習得や設備投資、さらには新たな収益源の開拓を迫られている。一方で、生き残りをかけた競争はますます厳しく、業界全体の再編が進む中、適応できない修理工場はさらに淘汰される可能性が高い。
(中国経済新聞)