日本では学生のアルバイトは一般的であるが、中国ではそうではない。
最近、中国の名門大学である浙江(セッコウ)大学の博士後期課程に在籍する孟偉(メン・ウェイ)さんがフードデリバリーの配達員をしている動画がネット上で話題となり、中国最大のQ&Aサイト「知乎」(チフー)(Yahoo!知恵袋のようなもの)では閲覧回数が700万回に達した。孟偉さんは学業成績が優秀で、浙江大学控制学院の博士後期課程で学んでいるのにも関わらず、なぜフードデリバリーの配達員をしているのか?なぜ母校に申し訳ないと言ったのか?今までどのような人生を歩んできたのか?など、ネット上では多くの質問が寄せられている。
中国のニュース配信サービス「上遊新聞」によると、浙江大学のウェイボー(微博中国版Twitterの様なSNS)公式アカウントでは、孟偉さんが大学院生の学習をサポートする非常勤講師、G20サミットでの優秀ボランティア、浙江大学優秀党員、浙江大学優秀学生トップ10などの輝かしい経歴をもつことがわかった。こうした輝かしい経歴と「8年間では学位を取得できず、フードデリバリーの配達員」現在の彼の姿に多くの人が驚いている。
孟偉さんがネット上に公開した短編動画を見ると、2014年に彼は浙江大学控制学院の学部修士博士課程の8年コースへ推薦入学し、卒業予定日は2019年6月だったが、現在も「在学中」となっている。
孟偉さんは3年生の初め頃から気分が塞ぎ込むようになった。彼の状況を察知して、当時指導教官から修士課程への転向を提案されたが受け入れることができなかった。周囲の学生と自分自身を比べ、他の学生は人生の正しい道を進んで行くのに、自分だけが身動きが取れず、ずっと同じ場所にいるようで、毎日不安だけが押し寄せて来た。
2021年には、生まれたばかりの彼の息子が病気になり、急にお金が必要になったためアルバイトでフードデリバリーの配達をするようになった。当時、息子が生まれて10日後、爆発性心筋炎と診断され、丸2ヶ月にもおよぶICUでの治療で、医療費は一日2万元(約40万円)にのぼる時もあり、経済的な重圧に押し潰されそうだった。
孟偉さんは、息子の医療費を稼ぐことができ、比較的自由に時間を使え学業も両立できることからフードデリバリーの配達員を選んだ。同時に、3年以内に学位論文を提出し博士号を取得する夢も諦めておらず、限られた時間の中で勉学に励んでいる。
フードデリバリーの配達員をしていることがネット上で話題になり、様々な誹謗中傷を受け孟偉さんは自分の動画アカウントで「申し訳ありません。浙江大学に恥をかかせてしまった」と頭を下げて謝罪した。
孟偉さんは、自分の事を「職歴がなく、30歳になっても学業を修了しておらず、学士号しか持っていない人」と表現し、これは決して私だけが唯一の例ではなく、現状では私のような人が社会に出るのは非常に難しいと述べている。
孟偉さんの現状に対して、多くのネットユーザーが「謝る必要はない」、「子供や家族のために、自分の労働でお金を稼ぐことは何も恥じることはない」と励ましの言葉をかけている。その他にも「この出来事は感動的なようでいて、どうしようもなく胸が痛む」、「学んだことを実際に役立てることができず非常に残念。このまま配達員を続けるのはもったいない」、「問題の本質は、博士課程の学生が配達員をしていることではなく、なぜ配達員より収入の多い職業を見つけられないのかということだ。学校のせいなのか?社会にハイエンドの人材は必要ないのか? いったい誰のために博士号を出しているのか」などネット上には多くのコメントが寄せられている。
博士課程学生は、知性と能力の象徴として誰もが羨み、科学と経済の発展にとってなくてはならない存在だ。現時点で、中国の博士課程の学生数は80万人に達している。
中国の公式サイトにおいて「博士課程学生に対する国家奨学金支給基準のさらなる引き上げに関する財政教育部の通知」が発表され、博士課程学生に対する補助金が年間12,000元から15,000元(約24万円~30万円)へ引き上げられた。さらに、博士課程学生は、指導教官の研究プロジェクトに参加することで、大学から補助金や奨励金を受け取ることができる。博士課程学生補助金政策は現在、重点大学で既に実施されており、一部の重点大学では、博士課程学生の生活費を最大6,000元(約12万円)まで補助している。 学んだ知識を役立てることは、博士課程学生と社会にとって共通の願いとなっている。
中国のみならず、優秀な学生達に明るい未来があることを期待したい。
(中国経済新聞)