一介のアルバイターから女性富豪ナンバーワンとなった、「藍思科技」の創業者である周群飛氏。レジェンド感満点の人生を過ごしてきた。
1970年に湖南省湘郷市の山あいの村に生まれ、1980年代末に父に連れられて家族とともに生計を求めて広東省に移り、深センで腕時計のガラス加工場で働きながら夜間学校に通った。23歳となった1993年、腕時計用ガラスの工場を打ち立て、家族経営といった形で注文を受け付けるようになった。
2001年、友人がTCLの折り畳み携帯電話用パネルのオーダーを受け、加工の部分を周氏に任せた。周氏はそこで、当時流行していた有機ガラスに代わって、自社のガラス製作工程をパネルの製造に生かそうとした。有機ガラスは傷がつきやすく熱で変形するという欠点があったが、ガラスのパネルはこの問題を解消し、かなりの人気を集めた。
2003年に周氏は藍思科技を設立し、携帯電話のガラスパネルの開発や生産、販売を手掛け、モトローラなど海外メーカーの受注を得た。そしてアップルからの受注を得たことで、会社は本格的に成長していった。
藍思科技は現在、世界最大のタッチスクリーンメーカーとなり、グローバルシェアは50%を超え、社員数は8万人以上に達している。
周氏は2015年に、資産額500億元(約1兆117億円)で中国の「女性富豪ナンバーワン」になっている。
腕時計用ガラスから携帯電話用ガラスへ。周氏率いる藍思科技は携帯電話の勘所を捉え、アップルからの受注で花形企業となり、周氏も長者番付女性トップに上り詰めた。しかしアップルへの依存度が強すぎたこともあり、携帯電話の不振で経営が苦しくなっている。
藍思科技の決算データによると、2012年からアップルが最大の取引先となり、売上先に占める割合が他を圧倒している状態が続いている。2021年の売上高を見ると、上位5社の取引先で占める割合が全体の80.56%、中でもアップルが66.49%を占め、以下サムスン、ファーウェイの順になっている。
ここ数年は、携帯電話の不振に伴って業績が伸び悩んでおり、先ごろ発表した2022年上半期の決算では、売上高は191億元で前年同期比10%マイナス、利益は113%も下がって3億元の赤字を計上してしまった。もはや利益は望み薄になっている。
また株価を見ると、2021年1月には41.4元まで伸び、時価は2058億元であったが、その後は業績不振とともに落ち込み、8月30日の終値は10.95元であった。時価も544.6億元まで下がり、2年足らずで1500億元(約3兆366億円)という下落を記録した。これにより富豪だった周氏の資産も削られている。
藍思科技はこうした不振から脱却するため、自動車用ガラスに目を向けるようになった。テスラ、BMW、ベンツ、VW、理想、蔚来などの新エネ車メーカーから、車載用タッチパネル、新車用のガラスなどといった注文を受けているとのことである。ただし設備投資も増えているという。
(中国経済新聞 山本博史)