5月12日、中国と米国は「中米ジュネーブ経済貿易会談共同声明」を発表し、5月10日から11日にかけてスイス・ジュネーブで開催された高官級会談の成果をまとめたもので、両国が相互関税の一部停止と新たな協議メカニズムの設立で合意したことを示している。
今回の共同声明は、米中間の貿易摩擦が急激にエスカレートした状況下で発表された。トランプ政権2期目の開始後、米国は中国商品に対し最大145%の追加関税を課し、中国も米国製品に最大125%の報復関税で対抗。この異例の高関税戦争は、両国経済に深刻な影響を及ぼした。米国西海岸の主要港では中国からの貨物船の到着が一時ゼロとなり、ロサンゼルス港や長灘港の貨物取扱量はそれぞれ31%、35~40%減少。米国では消費者物価の上昇や商品不足の懸念が高まり、中国でも輸出企業の業績悪化が問題となった。
こうした状況を受け、ジュネーブで開催された会談では、両国が関税引き下げや貿易摩擦の緩和に向けた妥協点を探った。会談には、中国側から何立峰副総理、米国側からベッセント財務長官とグリア通商代表が出席し、2日間にわたり集中的な協議を行った。会談終了後、双方は「大きな進展があった」と発表し、今回の共同声明に至った。
共同声明の最大のポイントは、両国が24%の関税を90日間停止し、一部の追加関税を撤廃することで合意した点だ。これにより、米中間の貿易コストが部分的に軽減され、物流の停滞や消費者物価への圧力が緩和される可能性がある。特に米国では、クリスマス商戦を控えた時期に商品不足を回避できるとして、小売業界から歓迎の声が上がっている。一方、中国の輸出企業にとっても、関税負担の軽減は業績回復の追い風となる。
また、継続的な協議メカニズムの設立は、米中が対立をエスカレートさせるのではなく、対話を通じて問題解決を図る姿勢を示した点で重要だ。 ブルームバーグは、「今回の合意は完全な解決ではないが、貿易戦争の『休戦協定』として機能する」と分析。X上の投稿でも、「関税の一部停止は市場にとってポジティブなシグナル」との声が聞かれる一方、「90日後の再評価が新たな火種になる可能性もある」との慎重な意見も見られた。
共同声明は貿易摩擦の緩和に向けた前進だが、米中間の根深い対立が解消されたわけではない。米国は中国に対し、技術移転の強制や知的財産権の保護、フェンタニル問題など、関税以外の議題で圧力をかけ続けている。一方、中国は米国の「一方的な保護主義」を批判し、さらなる譲歩には慎重な姿勢を示している。共同声明では、90日後の関税停止期間終了後にどのような措置が取られるかは明示されておらず、この不確実性が市場の懸念材料となっている。
さらに、地政学的な緊張(台湾問題や南シナ海問題)や、米国の対中技術輸出規制など、経済貿易以外の分野での対立が、協議の進展を阻害する可能性もある。ウォール・ストリート・ジャーナルは、「今回の合意は短期的な緊張緩和には寄与するが、構造的な問題解決には長い道のりが必要」と指摘している。
今回の会談の開催地であるスイスは、中立国として米中間の対話を仲介する役割を果たした。ジュネーブは過去にも米ソ首脳会談など歴史的な交渉の舞台となっており、今回の会談もスイスの外交的成功として評価されている。国際社会は、米中が貿易摩擦を緩和することで、グローバルサプライチェーンの混乱やインフレ圧力を軽減することを期待している。特に、日本や欧州の経済界は、米中対立の収束が世界経済の安定につながるとの見方を示している。
「中米ジュネーブ経済貿易会談共同声明」は、米中間の高関税戦争に一時的な「休戦」をもたらす重要な一歩となった。しかし、両国がジュネーブでの交渉で合意に達したわずか3日後、米商務省と産業安全保障局(BIS)は、華為(ファーウェイ)の昇騰チップの使用が米国の輸出管理規則に違反するとの公告を発表した。さらに、米国の人工知能(AI)チップを使用して中国のAIモデルを訓練することの潜在的なリスクについて警告を発した。
これに対し、中国外交部の林剣報道官は5月16日、米国の措置を強く非難した。林氏は、米国が国家安全保障を過度に拡大解釈し、輸出規制や長臂管轄(域外適用)を乱用していると批判。米国の行動は、中国のチップ製品やAI産業に対する不当な封鎖と抑圧であり、市場ルールを著しく侵害し、グローバルなサプライチェーンの安定を損ない、中国企業の正当な権益を害していると述べた。
この新たな対立は、米中間の技術覇権争いが依然として深刻であることを浮き彫りにしている。 中米間の対立と交渉は、長期間にわたって続く可能性が高い。これは、20世紀70年代の繊維交渉に始まり、自動車や半導体などの分野に拡大した日米貿易交渉が、1990年代初頭の日本のバブル経済崩壊後にようやく安定した歴史を彷彿とさせる。米国の対中抑圧政策は、中国の発展の勢いが米国にとって「安全」とみなされるレベルまで減速するまで続くと考えられる。
しかし、中米関係は日米関係とは根本的に異なる。日米は同盟国であり、両者の主な対立は経済分野に留まっていた。米国は日本が経済や産業で米国を追い越すことを嫌い、日本も「世界第二位」として米国に服従する姿勢を示した。一方、中米関係は対立と競争に基づいている。この対立の背景には、総合的な国力の競争、すなわち将来の「世界の覇者」を巡る争いがある。さらに、「民主主義」と「専制政治」という二つの制度の陣営間での競争も存在する。
したがって、関税を主軸とする貿易摩擦は、米国が中国の台頭を抑える第一歩に過ぎない。今後、技術、金融、軍事などの分野での競争が、トランプ政権の期間を通じて続き、さらに20年、30年と長期にわたって展開するだろう。この対立は、米中間の勝敗が明確になるか、または米国が中国の発展の勢いを脅威とならないレベルまで弱めるまで続くと考えられる。
米中間の争いは、貿易戦争が始まりに過ぎない。今後の展開は、両国の国力、戦略、そして国際社会の動向に大きく左右されるだろう。