農村の少女から世界ハイテク産業の中心へ 馬斯克氏とクック氏に挟まれ注目集めた中国人女性起業家

2026/05/16 20:15

5月14日、習近平国家主席が北京の人民大会堂で開いた歓迎晩餐会で、ひときわ注目を集めた中国人女性経営者がいた。Lens Technology(藍思科技)の周群飛董事長だ。

周氏は、Elon MuskとTim Cookの間に座っていたことで話題となった。一般にはあまり知られていない存在だったが、この席順によって「なぜ彼女が中米財界トップの中心席に座るのか」に関心が集まった。

赤い丸で囲まれている人物は、藍思科技の周群飛董事長だ。

現在では、Apple、Tesla、BMW、Mercedes-Benzなど世界的企業向けにガラス部品を供給する「タッチパネルガラスの女王」とも呼ばれる周氏だが、その人生は決して順風満帆ではなかった。

周氏は湖南省の農村部に生まれ、5歳の時に母親を亡くした。父親は爆薬事故で失明し、両手の指の数本も失ったため、家計は父親が竹かごを編んで支えるしかなかったという。

15歳で学校を中退した周氏は、親戚を頼って広東省へ渡り、香港系企業「奥亜光学」の時計用ガラス工場で働き始めた。昼は工場でガラスを磨き、夜は深圳大学の夜間講座に通った。会計資格やパソコン操作資格、通関資格、自動車免許など、取得できる資格は次々と取得したという。

わずか3年で工場長に昇進したが、その後、経営陣の親族との軋轢から退職を決意。当時、手元にあったのは2万元(約40万円)だけだった。

周氏は湖南省から来た親族8人とともに、深圳市内の3LDKマンションを借り、そこを工場兼住居として創業した。昼は営業で顧客を回り、夜は深夜2〜3時まで働く生活を10年間続けたという。

転機となったのは2003年だった。Motorola が携帯電話「V3」を開発した際、超薄型・無欠陥のガラスパネルが必要になった。しかし、その厳しい条件を引き受ける企業は中国国内に存在しなかった。

そこで周氏が名乗りを上げた。全財産を投じ、Motorolaの技術者と何度も試作と改良を繰り返した結果、「V3」は世界で1億台以上を販売する大ヒット商品となり、藍思科技は一躍業界で注目される存在となった。

その後、Nokia や Samsung Electronics からも注文が相次いだ。

さらに2007年、Steve Jobsが初代iPhoneを発表する際、Appleは強化ガラスを用いた全面ガラススクリーンを必要としていた。しかし、曲率、薄さ、透過率など要求水準は極めて高く、世界中の企業が対応を断った。

ここでも周氏は挑戦を引き受けた。

周氏のチームはAppleと約3カ月間共同開発を行い、Corning 製ガラスを実用レベルのスマートフォン用ディスプレーへ加工することに成功。これを機に、藍思科技はAppleの中核サプライヤーとなった。

その後、iPhone、iPad、MacBook、Apple Watchなど、Appleの主要製品のガラス部品供給を担うようになった。

現在では、Teslaの車載ガラスをはじめ、BMW、Mercedes-Benz、中国EVメーカー各社向け部品も供給している。さらに、人型ロボット分野にも進出し、関節部品やセンサー、外装パーツなども手掛けている。

周氏は、自身の成功の理由について「運でも、時代でも、努力でもない」と語っている。

彼女が挙げたのは、わずか二文字だった。

「敢接(引き受ける勇気)」。

「他人が面倒だと感じる仕事を引き受ける。他人が不可能だと言う仕事を引き受ける。Motorolaの時、中国で誰も引き受けなかった。Appleの時は、世界中で誰も引き受けなかった。でも引き受ければ、やがてできるようになる。できるようになれば、次はもっと大きな仕事が来る」

周氏はそう語ったという。

かつて農村部から出てきた15歳の少女は、いまや世界の巨大企業トップたちと同じテーブルにつく存在となった。歓迎晩餐会での席順は、周群飛という経営者が、すでに世界のハイテク産業の中核に深く組み込まれていることを象徴する光景だった。

(中国経済新聞)