香港の有名な粥チェーン店「海皇粥店(Ocean Empire Food Shop)」が、2025年5月7日夜、突如として全店舗を閉鎖した。香港で日常食として親しまれてきた粥を提供する同店の閉店は、市民に大きな衝撃を与えている。閉店の主な原因は、家賃の高騰、香港市民が深圳での消費を増やす「北上消費」の影響、そして市場の変化に対応できなかったことによる売上減少とみられる。

海皇粥店は1992年、蕭楚基氏と蔡汪浩氏によって創業された。蔡氏は家族で粥店を経営していた経験を持ち、2人は従来の粥店が抱える衛生面の問題に着目。清潔感とモダンな雰囲気を取り入れた新しいスタイルの粥店を立ち上げた。店員には清潔感のある制服を支給し、口紅の着用を義務付けるなど、見た目にも配慮。店内の装飾にもこだわり、気軽に入店しやすい環境を整えた。
1999年には「五常法」と呼ばれるマネジメント手法を導入した。これは「常組織(整理)」「常整頓(整頓)」「常清潔(清潔)」「常規範(標準化)」「常自律(習慣化)」の5つの原則に基づくもので、物品の分類や衛生管理のルールを徹底。キッチンスタッフにはマスクや手袋の着用を義務付け、油條(揚げパン)は製造後45分以内に廃棄するなど、品質管理を厳格に行った。その結果、2003年には国際規格「ISO9001」の認証を取得するまでに至った。
事業は順調に拡大し、2017年には香港内に24店舗、海外を含め約30店舗以上を展開するまでに成長。社員のキャリアパスを構築するなど、伝統的な粥を提供しながら現代的な企業運営を行っていたことでも知られていた。
しかし、コロナ禍で状況は一変した。コロナ禍での売上減少に加え、収束後には観光客の回復が遅れ、フードデリバリーサービスの普及による外食需要の減少が追い打ちをかけた。さらに、香港の高額な家賃が経営を圧迫。例えば、灣仔の莊士敦道151-155号にある店舗は、3148平方フィートの面積で月額約40万香港ドルの家賃がかかっていた。人件費も上昇し、時給を上げても人手不足に悩む店舗もあった。
加えて、香港市民が物価の安い深圳市で消費する「北上消費」のトレンドが、香港の飲食業界に大きな影響を与えた。こうした厳しい経営環境の中、まず資金力の乏しい飲食店から閉店が相次ぎ、ついに海皇粥店のような大手チェーンにも波及。2020年には18店舗を展開していたが、2024年から2025年初頭にかけて8カ月間で5店舗を閉鎖し、最後に残った7店舗も全て閉店するに至った。
香港の飲食業界は、今後も厳しい状況が続く可能性が高い。海皇粥店の閉店は、伝統と革新を両立させてきた企業であっても、急速に変化する市場環境に対応することがいかに難しいかを物語っている。
(中国経済新聞新聞)