この度、岸田文雄首相がアメリカを訪問していた。
今回は、2015年の安倍晋三元首相以来となるアメリカ政府による「国賓」としての招待であり、岸田首相からすれば、この上ない名誉となる訪米なのである。
バイデン大統領やアメリカ政府がこれほどまで手厚い待遇をする理由は何か。
まず、岸田首相は安倍元首相が果たさなかったことを実施した。
気取ったインテリ系に見える岸田首相は、2021年10月の就任以来、安倍元首相よりもっと強烈な形で軍事力を強化している。アメリカのミサイル「トマホーク」を購入したほか、国産の短距離弾道ミサイルを遠距離へ攻撃できるものに改良した。さらには内閣で、初めて国産戦闘機の海外輸出を許可する議案を成立させた。こうした点はまさに、バイデン大統領とアメリカ政府の期待する「国際問題でさらに大きな役割を担ってほしい」という要望に沿ったものである。
次に、岸田首相は日米同盟についてより高い目標を掲げている。2003年、当時の小泉純一郎首相が訪米した際、「世界の中の日米同盟」との理念を打ち出した形で、イラクやアフガニスタンへのアメリカ軍による戦争を「後方支援」するとした。
その後2015年、安倍元首相がアメリカ国会での演説で、「希望の同盟」を提唱し、日米両国に対して「力を合わせ、世界をもっと良い場所にしよう」と呼びかけた。その後、安全保障に関する一連の法案を修正して、自衛隊とアメリカ軍を「兄弟関係」とした。
では岸田首相は、今回の訪米で「日米同盟」についてどういった理念や目標を打ち出すか。今年1月のホワイトハウスの声明では、「世界における日本のリーダーシップを拡大する」と示された。これに対して、岸田首相はアメリカ国会での「日米のリーダーシップと今後の協力」との演説で、「より高く、より新しく」との姿勢を打ち出した。日本をアメリカの最も忠実で頼れる兄弟とし、「世界でのパートナー」という日米関係を築き、世界的な問題へ対応し、日本を重要な地位にある政治大国とすると表明した。
今回の訪米で一番の議題は、防衛分野における日米同盟の強化である。武器システムのより効率的な構築方法を見つけることを目標に、新設される防衛産業協力の協議体の潜在的なプロジェクトとして地対空誘導弾「パトリオット3(PAC3)」の共同生産を視野に入れた。日本国内で米海軍艦船の補修をより多くできるように、日本の作業員が整備することになる。これは第二次世界大戦後の平和主義的姿勢からの歴史的転換であり、日本国民にとってはデリケートな政治問題でもある。
岸田首相の今回の訪米は、中国政府も強い関心を寄せている。中国は、これからのアジアの安全保障問題について、アメリカが中心ではなく日本がアメリカを牽引し、アジア太平洋地域におけるアメリカの軍事行動において日本が追随者でなく主導役となってしまうことを懸念しているのだ。
岸田首相は今回、フィリピンも交えた3か国の首脳会談にも出席し、海上でも引き続きフィリピンを援助し、日・米・比3か国による南シナ海での軍事演習を行う旨を表明した。こうした動きは中国からすれば、台湾だけでなくフィリピンにまで魔の手が伸びていくように見えて、中国の核心的利益に干渉するものと映る。
安倍元首相は在任時、日米中の3か国間で適度なバランスを築いていた。しかし岸田首相になってからはアメリカ一辺倒になってしまい、これら日米中の関係が「2:1」となって完全にバランスを失った。これも中国が岸田首相に対して我慢ならない理由である。
岸田首相は中国との関係改善を狙って今年5月に北京を訪れる、との情報がある。ただし、アメリカでの岸田首相の姿勢は中国にとって不愉快なものである。岸田首相は今年9月に行われる自民党総裁選挙での連続当選を狙って、アメリカで多分に奉仕をしているともみられる。ただしこれは中国からすれば、対中関係における胸の内をさらけ出した結果で、癇に障るものとなった。こうした雰囲気のもとで北京を訪れても、友好的に話を進める状態にならないことは明らかであり、中国としても望ましくないものになる。両国で意見が対立している中、日中関係を改善し発展させていく方向で合意するのはまず無理だ。
よって、「今年5月の北京訪問」などというのは岸田首相の片思いであり、中国は当然突っぱねるだろう。岸田首相が就任してから、日中両国の距離は遠のく一方になっている。
(文:徐静波)
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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。
講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。
日本記者クラブ会員。
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