今、中国人は何を考えているか

2023/09/6 11:30

8月中旬、年に一度の上海ブックフェアが開催されていた。拙著「日本人の性格」が出版されたばかりで、発行元である華文出版社から2回の講演を要請された。コロナ禍で中国では4年間も講演をしておらず、福島原発の処理水の問題もあって、中国の読者は今でも日本に関心があるのか、今でも日本が好きなのか、まるで見込みが持てなかった。

 「鐘書閣」という書店で行われた最初の講演は、定員150人のところ200人以上が集まった。上海でも有名なロシア風建築の「上海展覧センター」で行われた二回目の講演は、チケット購入が必要とあって500人の会場に半分ぐらい集まればいいと思っていたが、結果は満席で、立ち見の人も大勢いた。日本に対する関心度がここまで強いとは予想外だった。

 講演のテーマは二度とも、「日本人とどう付き合うか」だった。

 そして二度とも、終了後に30分間の質問コーナーを設けた。

 飛び交った多くの質問は、主に以下の三点に集中していた。

 一、コロナ禍を経た今の中国経済は、1990年代の日本のバブル崩壊の時期に似ていないか。日本はそれを乗り越えるのに30年以上を費やしたが、果たして中国はどうか。

 二、日本はなぜ福島原発の処理水を海に放出するのか。ほかに処理方法はないのか。日本の魚は食べられるか。日本への旅行は大丈夫か。

 三、日本に移り住むとすれば、どういった手続きでどのような経路で行くべきか。

 以上の三つの質問から、中国人が何を考えているのかが見えてくる。

 中国では、福島原発の処理水放出で世の中が真っ二つに分かれている。一つは「科学派」で、国際エネルギー機関(IAEA)の排出基準を満たしている上、「トリチウム」の濃度も希釈により諸外国の原発による放出分を下回っているので、科学的で安全なものと見ている。もう一つは「憤り派」で、海洋環境の汚染につながる国際的な犯罪行為とみなしている。

 福島原発の事故現場で取材をし記事を発表した経験のある私は、このような世論のせめぎ合いで「日本の外務省から宣伝費を受け取った裏切者」などと言われてしまった。

ただ笑うほかなかった。

 中国で今、この処理水問題を中心に日本との関係について触れるのはかなり危険であり、特にライブ配信される講演会では、少しでも言葉を誤ればたちまちネットの暴力に遭ってしまう。

一つ見解を述べる。これまで世界で発生した重大な原発事故は、旧ソ連のチェルノブイリと福島第一原発のみである。チェルノブイリの時はコンクリートで囲い込む策を取ったが、そのコンクリートは何十年も経過して劣化し、放射能漏れが解決せず一段と深刻になっている。一方日本では、放射能漏れを完全になくすために爆発した福島原発を撤去するという策を講じている。このような作業は人類史上初めてであることを認識すべきだ。「地球人」としてこのような挑戦を支持し、原発撤去のプロセスすべてに注視して、発生する問題やその解決方法を知る必要がある。原発を抱える国はみな、トラブルが起きないという確約ができないので、日本の方法は事実上、放射能漏れの解決策を学ぶための教材として世界に示すものになる。「地球人」という立場で今回の処理水放出を見ることができれば、考え方もあるいは違ってくるだろう。

 中国と日本の関係は、台湾問題や処理水の問題、日米韓による「東アジア軍事同盟」の結成を受けて、一段と脆弱かつ複雑になっている。「中日平和友好条約」の締結から45年となる2023年に、両国はいつ開戦するのか、などと話し合うのは心中つらいものだ。けれどいい解決策も見当たらない。どうしようか。

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。