中国で「ザリガニ飼育」がブーム OpenClawが大ヒット

2026/04/26 08:30

中国では2026年に入り、テクノロジー界や一般市民の間で「ザリガニ飼育」がブームになっている。これは決して本来の意味の水産物養殖ではなく、オープンAIエージェント「OpenClaw」のセットアップや実装、活用による流行現象である。

 2026年1月に公開されたOpenClawは、CitHubスター10万件獲得を過去最速で達成、そしてわずか数か月で獲得数が26万件以上となった。アイコンがザリガニのデザインであることから親しみを込めて「ザリガニ」と呼ばれ、コードのダウンロードや環境設定からデータの「エサやり」でAIに「手足を生えさせ」、タスク実行するなど、実装の際の生き生きした動きを「ザリガニ飼育」に例えている。

 このブームはたちまち、開発者コミュニティーから一般市民へと拡散した。3月6日、テンセントクラウドは1000人以上を集めて深センの本社で無料のセットアップサービスを実施。3月8日にはバイドゥ智能云が上海でイベント実施、300人以上が「小ザリガニ」を手に入れた。さらに3月11日に北京科技園で行われた「ザリガニ」市場は1000人近い市民が集まり、マンツーマンでのセットアップガイドを受けた。ただ中古品アプリでは、15元から299元という値段でアンインストールする例が相次ぐなど、大ブームの裏の複雑な事情も映し出されている。インターネット上に露出しているOpenClawインスタンスは27万件以上あり、このうち半分以上が中国ユーザーである。このため、国家インターネット緊急センターや工業情報化省が二重リスク情報を発している。

 OpenClawが短期間でブームとなったのはなぜか。この現象は中国のAI界における活力を示しているほか、技術革新や社会のニーズ、ビジネス的な部分などの様々な重なりを反映したものだ。本稿では、技術の本質や人気の有様、深層理由を足掛かりに、「ザリガニ飼育」ブームの要因を読み解き、潜在リスクや今後への影響を探る。

「チャットAI」から「実行AI」への革命

 「ザリガニ飼育」ブームの根源を知るにはまず、OpenClawの中心的価値を整理しなくてはならない。オーストリアのプログラマー・Peter  Steinberger氏が開発したオープンフレームであるOpenClawのSloganは、「The AI that actually does things」(実際にモノゴトをやるAI)だ。提案対応のみのOpenClawなど対話型AIとは異なり、AIに「手足」を与え、文書の閲覧や資料探し、コード作成、メール送信、あるいはデスクトップのアプリやスマート家具の操作といったタスクを実行する。

 アーキテクチャーは大脳(GPT-4や中国開発の大規模言語モデル)、記憶(ベクトルデータベースのユーザーデータメモリー)、ツール(アドオンシステムによる外部APIの利用)という3層構造である。OpenClawは、ユーザー権限さえあれば自然言語の指示通りにスケジュールを作成し、ツールを使って複雑な操作をする。例えば、「Excel表を整理して社長にメールを送信して」と指示すれば、ファイルを開いてデータを分析し、レポートを作成し送信してくれる。こうした「隅々まで実行」するスキルがあり、AIが「コンサルタント」から「デジタル社員」へ変わりゆく模範例となるものである。

 OpenClawの人気の理由は、オープンMITプロトコルにある。無料でユーザー定義が可能であり、クローズ系クラウドに頼らずローカルまたはクラウドで実装可能である。AutoGPTなど早期のAgentよりもセットアップが簡単で、ボタン一つで数分間でスクリプトを作成し、中国製LLM(アリババの「通義千問」やバイトダンスの「豆包」など)に安価で接続するなど、大変使いやすい。「ザリガニ飼育」はこうして一種の文化的シンボルとなり、データの「エサやり」から技能の「トレーニング」までペット飼育を楽しめるもので、面白味や一体感を味わえる。

オンラインから現場まで国民的な参入に

 このブームは、中国で特に盛り上がっている。RED、Tiktok、Bilibiliで数多くの教材ビデオが配信され、料金数百元から1000元以上という実装サービスも出ている。大手各社もすぐ反応しており、テンセントはWechatと統合してリモート操作を実現したQClawと、OpenClawと互換性があり1分間で法人版Wechatに接続するWorkBuddyを開発した。同社のポニー・マー社長はモーメンツで、「これほどの人気は予想外だった」との感想を述べた。バイトダンスの「飛書」はAPIの上限を月100万回に増やしたほか、公式アドオンを開発した。さらにバイドゥやアリババなどがイベントやビデオ配信を実施し、クラウドサービスを拡大している。

 現場の方ではさらに盛り上がっている。深センのテンセント本社でのイベントは1000人が集まり、北京や上海の「ザリガニ」バザーは大混雑し、成都ではセキュリティーや実装を公開する「ザリガニ局」も行われた。シャオミのクローズドテストXiaomi miclawは米家システムに接続し、智譜は1分間でローカライズするAutoClaw(澳龍)を開発した。ユーザーはプログラマーから人事、運営、営業へ、さらに定年退職者や家庭の主婦へと広がった。ゴールドマン・サックスの営業記録では、「中国人のAIを取り込む速さは驚かされる」と記されている。

 ところが、ファイルの誤削除やプライバシー漏えい、高額なToken利用代(1人あたり1・2万元など)といったブームの行き詰まりも見える。アンインストールのサービスが始まったことで、工業情報化省はネットで暴露されるリスクを警告した。こうした面でもブームの大きさがうかがえる。

 ブームの理由その一:技術革新や生産力による秘められた力が自由化

 OpenClawがブームとなった一番の理由は、技術革新による生産力の革命である。AIの時代、「チャット式」のやり取りが食傷気味で、「実行式」ツールが求められる。 OpenClawはAIを、「指示を出す」から「結果を出す」に変え、改善を果たした。プログラマーがコードを作り、アナリストがデータを処理し、人事が自動的に社員を採用する。ネットでは「よりよいモデルではなく、デジタル労働力を普通の人に供与する機会を売っている」とたとえる声もある。

 こうした自由化は、「AIへの心配」や社会的圧力から生まれたものである。中国は経済改革による失業増や効率へのニーズを受け、AIの価値が拡大している。若者の失業率が高止まりする2026年、OpenClawは「財産ツール」と見られ、株選びやレポート作成、スライド制作に使われる。FOMO(焦りを誘う)で、取り残されるのを恐れて殺到していく。社会技術学では「デジタル生産力の平等化への願いーーオープン化で大手独占を破り、普通の人がAIを制御した」と分析されている。

 ブームの理由その二:オープンソースとコミュニティーPRによる効果の拡大

 OpenClawのウイルス状の拡散はオープンソースによるものだ。MITプロトコルでは自由な修正が認められ、ClawHubの市場では外部のアドオン(不正リスクもあるが)が20%に達している。コミュニティーでシステムを強大化しており、開発者は2600人でスキル保有者は92%であるが、教材ビデオにより手を出しやすくなっている。SNSの効果もあり、REDやTiktokではカリキュラムが300%増で、実装代行による「金儲け」も生まれ、月に数十万元を稼ぐ人もいる。

 文化的シンボルの「ザリガニ飼育」は面白味も加わった。「エサやり」から「トレーニング」までペットのような親しみがあり、シェアしたくなってしまう。「スーパーコネクター」である香港は、ブームのさらなる拡大へ優遇策(「ザリガニ十条」など)を講じている。

 ブームの理由その三:大手の後押しとビジネスチャンスによる外的な作用

 大手各社がブームを後押ししている。テンセントやバイトダンスなどがWechatや飛書や法人WechatをOpenClawに接続してクラウドサービスを広げるなど、オープン化を進めている。テンセントのWorkBuddyは社員2000人が使用しており、バイトダンスのAPIは上限が百倍になった。単に勢いに乗じたものではなく、「スーパーエントリー」の争いであって、OpenClawはアクセスを支配する次世代OSになりうるものである。

 ビジネスチャンスも十分だ。LLMの開発会社は売上が急増し、Kimiは 20日間で2025年1年分を越えた。深センなど地方政府も起業へ支援策を出している。ゴールドマン・サックスは「中国のAIへの意気込みには感心する」と称している。

(中国経済新聞)