7月16日、中国の人工知能(AI)企業・月之暗面科技有限公司(MoonshotAI)が、次世代AIモデル「Kimi K3」を発表した。このモデルはパラメータ数が2兆8000億に達し、現時点で世界最大規模のオープンソースモデルとして注目を集めている。中国のAI開発が新たなステージに進んだ象徴的な出来事であり、世界のAI競争に大きな影響を与えている。
Kimi K3の主な特性
KimiK3の最大の特徴は、その膨大なスケールにある。パラメータ数は2兆8000億を超え、これまでの中国国内最高水準だったDeepSeekの「V4」を75%上回る規模だ。月之暗面の責任者は、「パラメータ数が多いほど能力の上限が高くなり、より高度な性能を発揮できる。人間の脳内神経回路の結合のように、膨大な知識や法則を蓄え、深く理解し、精度の高い回答を生み出す」と説明している。
さらに、KimiK3はネイティブに画像理解に対応しており、100万トークンの巨大なコンテキストウィンドウを備えている。これにより、長文の文書や複雑なマルチモーダルデータを一括で処理可能だ。ソフトウェア開発、知的業務、ディープリサーチ、マルチモーダル理解といった高度なタスクに最適化されており、大規模言語モデルの限界を押し広げている。
性能面では、総合的な知能レベルが世界最先端のクローズドソースモデルに匹敵すると評価されている。特にコーディング能力とエージェント機能(自律的にタスクを実行する機能)で優位性を発揮する。公開された比較では、OpenAIの「GPT-5・6Sol」やAnthropicの「Fable5」を一部で上回る結果を示した。また、複数のエージェントが協調する「スワーム」機能により、最大100体の分身を生成し、並行作業を実現。実行時間の大幅短縮と処理能力の向上を可能にしている。
もう一つの大きな優勢はコストパフォーマンスだ。OpenAIやAnthropicの最先端モデルに比べ、一定トークンあたりの利用料金が40~70%安価である点が挙げられる。この低価格戦略は、オープンソースである特性と相まって、新興国や開発リソースの限られた地域での普及を後押ししている。月之暗面は「知能の民主化」を掲げ、モデルの中身をすべて公開することで、研究者や開発者が自由にアクセス・改善できる環境を提供している。
KimiK3の登場は、米中AI競争の構図を象徴する出来事となった。米調査会社の人為的分析では、プログラミング、数学、科学などの多分野総合評価でAnthropicの最新モデルやOpenAIに次ぐ3位にランクイン。米ペンシルベニア大学ウォートン校のイーサン・モリック教授は「オープン型としては素晴らしい成果」と称賛した。 一方で、総合性能では依然として米国勢が優位を保つとの見方もある。ただし、Kimi K3は一世代前のモデルを上回る性能を低コストで実現しており、中国AIが「8~12カ月遅れ」という従来の見方を覆す可能性を示唆した。
創業者は楊植麟氏
KimiK3の成功の背景には、創業者である楊植麟氏の卓越したビジョンと経験がある。楊氏は清華大学を卒業後、米カーネギーメロン大学で博士号を取得したエリート研究者だ。在学中からAI分野で活躍し、清華大学の同級生とともに「循環智能」を起業。2019年に博士号取得後、大規模言語モデル「盤古(Pangu)」を開発し、ファーウェイに採用される成果を上げた。グーグル、メタ、ファーウェイからのオファーをすべて辞退し、自身のアントレプレナーシップに注力した。

転機は動画共有アプリ「TikTok」を運営する字節跳動(バイトダンス)の創業者張一鳴氏との出会いだった。張一鳴氏はChatGPTの登場後、大規模言語モデル(LLM)の重要性を痛感し、楊氏と接触。2023年4月、楊氏は「月之暗面」を北京で創業し、張一鳴氏が香港の個人投資会社を通じて資金を提供した。設立わずか半年後の2023年10月には対話型AI「Kimi」を公開。20万字を超える長文中国語対応という画期的な機能で注目を集め、24年2月には投資総額10億ドル超のユニコーン企業へと急成長した。
楊氏は3月のNVIDIA主催「GTC」イベントで登壇し、「我々の目標はより優れたオープンモデルを構築すること。知能の民主化を信じている」と語った。クローズド型が主流の米国に対し、オープンかつアクセス可能なモデルを推進する姿勢を明確にしている。
(中国経済新聞)
