中国のデジタル出版大手、中文在线(Zhongwen Online)は、2025年上半期(1〜6月)の連結決算を発表した。売上高は前年同期比20.40%増の5.56億元(約111億2,000万円)と順調に伸びたが、最終損益は2.26億元(約45億2,000万円)の赤字と、前年同期から50.84%悪化した。販促費用の急増と海外事業の赤字が業績を圧迫した。
■ 売上増も販促費用が圧迫 営業利益は赤字転落
上半期の売上は主にデジタルコンテンツのライセンス提供やIP派生商品の販売によるもので、以下のような内訳となっている。
デジタルコンテンツライセンスおよび関連商品の売上:3.11億元(約62億2,000万円、前年比+5.74%)
■ IP派生商品の売上:2.37億元(約47億4,000万円、前年比+46.43%)
一方、営業コストは3.79億元(約75億8,000万円、+7.45%)、販売費用は2.66億元(約53億2,000万円、+42.78%)と大きく増加。特に海外展開に関連するプロモーション費用が大幅に膨らみ、収益を圧迫した。これは、同社が新たに立ち上げたショートドラマアプリ「FlareFlow(フレアフロー)」への先行投資によるものとみられる。

■ 海外ショートドラマ事業、急成長の裏で赤字拡大
中文オンラインは2025年上半期時点で、「FlareFlow」を含む4つの海外向けショートドラマプラットフォーム(枫叶互动、Sereal+、UniReel)を展開。なかでもFlareFlowはローンチからわずか3か月で約1,000万件のダウンロードを記録し、ユーザー課金収入も500%超の伸びを示した。
しかしながら、FlareFlowの上半期売上は783.9万元(約1億5,678万円)にとどまり、純損失は4545.15万元(約9億909万円)に達した。この赤字は、主に国際的なショートドラマ撮影基地の整備など大型投資に起因するとされる。
さらに、中文オンラインが49.24%を間接出資しているショートドラマ事業ReelShortも赤字を計上。親会社CMS(枫叶互动)は27.6億元(約552億円)の売上を記録したが、純損失は4651.15万元(約9億3,023万円)となっており、グループ全体での収益改善には課題が残る。
■ AI「中文逍遥」導入で制作効率化 コスト削減と市場分析に活用
業績悪化が続くなか、中文オンラインはAI技術の活用を積極的に進めている。同社が開発した大規模言語モデル「中文逍遥」は、FlareFlowでの脚本作成、ストーリーボード設計、AI漫画制作、セリフの自動生成などに活用されており、制作コストの削減や作業の高速化に貢献している。
特に、物語の構成、人物設定、台詞の自然なリライトなどにおいて高い精度を発揮しており、海外市場で人気のあるジャンルや物語構成の傾向をAIが分析・提案することで、現地ニーズに即したコンテンツ開発が可能となっている。
■ 売掛金の増加と財務の健全性にも懸念
決算資料によると、中文オンラインの売掛金・長期売掛金などの合計は、2025年上半期末時点で1.72億元(約34億4,000万円)に達し、前年同期(1.62億元=約32億4,000万円)から増加している。これは同社の収益モデル上、回収までに時間を要することが影響している。
■ 今後の展望:AIと海外展開のバランスが鍵
中文オンラインは2000年設立、2015年に深圳証券取引所に上場した中国のデジタル出版の先駆企業であり、「中国デジタル出版第一股」として知られている。近年は単なる電子書籍の提供にとどまらず、IPのマルチ展開、動画コンテンツ化、AIとの融合によって収益モデルの多角化を進めている。
今後は、AIによる制作コスト削減を武器に、赤字が続く海外事業をいかに収益化へと転じさせられるかが成長のカギとなる。FlareFlowのようなプラットフォームを軸に、グローバル市場での存在感をどこまで高められるかに注目が集まる。
(中国経済新聞)