10月30日、中国で初となる完全自主技術によるロボットシミュレーショントレーニング場が湖北省武漢市の東西湖区で正式に稼働を開始した。これにより、中国はロボット仮想訓練分野における海外企業の技術独占を打破し、グローバルなエンボディードAI(具身知能)産業チェーンにおいて新たな「中国エンジン」を搭載した形となる。

長年にわたり、物理エンジン技術は米エヌビディア(NVIDIA)やグーグルなど海外の大手企業が独占してきた。だが、武漢のスタートアップ企業「謀先飛技術有限公司」は、すべてのソースコード、ツールチェーン、データパイプラインを自社開発し、完全自主制御型の物理エンジン「MotrixLab」を構築した。同社創業者の崔漢青氏は「私たちは根本からの革新にこだわり、全ての要素を自前で積み上げてきた」と語る。
現地で行われたデモンストレーションでは、記者がVRゴーグルを装着して仮想世界に入り、ロボットの学習過程を観察した。仮想のスーパーで記者が棚から飲料を取ると、現実世界のロボットも即座に同じ飲料を取り出した。また、仮想の寝室で記者が布団をたたむと、ロボットも瞬時に同じ動作を再現した。
崔氏によると、シミュレーショントレーニングは「ロボットの仮想学校」にあたる。スーパーの買い物からレストランでの接客、家庭内整理、工場のオペレーションまで、数多くのリアルな場面をゲームのように滑らかに切り替えながら、効率的に大量の仮想データを生成。これによりロボットは現場配属前に「事前実習」を積むことが可能となる。

現在、具身知能が抱える最大の課題はデータ不足だ。実機によるデータ収集は精度が高いものの、設備・人員・環境構築に大きなコストがかかる。一方、仮想環境で生成されるデータは低コスト・高効率だが、現実にどこまで近づけるかが鍵となる。
MotrixLabは、国産チップおよびOSに完全対応し、計算精度は産業レベルに達する。算力消費は海外製品の10分の1以下で、特に具身知能分野では精度・規模・効率でNVIDIA製品を上回る水準にあるとされる。ただし、エコシステムの構築面ではまだ差があるという。
すでに、宇樹(Unitree)、睿爾曼(REALMAN)、星海図、加速進化、松延動力など国内主要ロボットメーカーがMotrixLabを導入しており、実環境テストでも高い成功率を記録している。

ロボットシミュレーション場の整備に加え、武漢市では人型ロボット産業全体の高度化も急速に進んでいる。武漢大学の劉勝院士チームによる「天問」シリーズは、自動化生産ライン4本を建設中で、年間1,500台の生産を見込む。光谷東智ロボットも年産300台体制から来年には1,000台以上へと拡大する計画だ。
主要部品分野でも、灏存科技の「運動神経中枢システム」は0.001度の角度精度と3ミリ秒の応答遅延を実現。華威科は2,000台分の人型ロボット用「電子皮膚」をすでに量産・出荷している。
また、武漢市はロボットの実用化に向け、産業現場での「実戦投入」を推進。自動車、医薬流通、家電分野などで実証ラインやモデル工場を設け、製造業のスマート化を図る。
武漢市科技イノベーション局によると、市内ではすでに人型ロボット関連の部品31種のうち85%をカバーするサプライチェーンが構築済みで、6社の完成機メーカー、80社超の中核企業、1,000社近い関連企業が集積している。さらに、総額10億元(約230億円)規模の人型ロボット産業投資基金を設立し、技術開発・プラットフォーム整備・実証場面開放・企業育成を支援する方針だ。
市の目標では、2027年までに1,000億元(約2兆3,000億円)規模の人型ロボット産業クラスターを形成し、電子皮膚や運動制御などの分野で世界をリードする拠点を目指すとしている。
(中国経済新聞)
