夜にWechatのモーメンツを見ていたところ、上海で商売をしている友人から「全人代が終わった。目標は5%、まあ食べていけるか」というメッセージがあった。ほんの短い文章だったが多くの人の気持ちが出ていた。全人代は誰もが見つめる風向計であり、この巨大な船がどこへ向かうのか、安定できるか、もっと速くできないか、と思うものである。
まず今回の中国全人代の「シナリオ」を見てみよう。政府活動報告では、2025年のGDP成長率目標は5%前後、失業率は5・5%前後、CPI上昇率は2%前後とされ、まあ妥当に見える。これらの数字の背後の意図を細かく見る。成長率5%が高いか低いか、世界経済というよどんだ池の中では中の上と言えようか。ただ、これを実行する際し、スローガンを叫ぶのみである。この一年間、不動産はあえぐばかり、貿易はアメリカの関税に振り回され、消費も庶民が財布のひもを引き締めてカフェの「特価latte」が主役になっている。5%は慰めに見え、それ以上に課題とも映る。
なにしろ不動産がガンである。全人代での「下げ止まり回復へ引き続き全力を尽くす」との訴えは、聞こえはいいが具体的な実行策が出ていない。杭州で仲介業を営む友人と数日前にやり取りした際、「去年末には規制緩和で成約件数が持ち直したが、売値は弱々しかった」とのメッセージがあった。中国全土で、販売面積は7・5億平方メートルだが工事面積は73億平方メートルに達しており、一年間で10億平方メートルも売れないという著しい供給過多になっている。
2025年の中国経済について、一番の脅威はトランプ大統領の関税である。
アメリカは3月4日、中国の製品に対して10%の追加関税を講じ、これまでの分も加えるとかなりの重荷となった。ところがデータを見ると、中国の1~2月の輸出は2・3%プラスであり、去年12月の10・7%よりは少ないものの大崩れではない。全人代では、環境型貿易やデジタル貿易を成長させ、越境ECを足掛かりとすると主張した。日本の街中で深センのドローンや杭州の衣服が売れ行き好調なのを見て、この考えは正しいとも思った。外は風雨であるが、中国は新しい市場を探さなくてはならず、欧米市場を見つめてばかりではいけない。
また消費については全人代で、「内需を振興すべき」と明言した。しかし庶民の財布が膨らむわけでもない。2024年、「独身の日セール」の売上高は以前ほど伸びなかったが、ハルビンの氷祭りは盛況だった。なぜか。お金を使いたくないのではなく、出費にはそれなりの理由があるのだ。北京でカフェを経営する友人は、「去年は国から補助金もあったし、家賃も下がったのでやっていけた」と言う。しかしこの政策が終わると、また節約しなくてはいけないという。全人代ではまた、消耗品の下取り策を支えるために長期特別国債を発行すると言った。なかなかのアイデアで家電や自動車の買い替え負担は減るが、それでも大金が必要だ。大事なのは庶民が財布のひもを緩めるかであり、自信はお金より大切なのだ。
科学技術や製造業については、今回の全人代の報告で明るさを感じさせた。「『新たな質の生産力』を育てる」とし、AI、LLM(大規模言語モデル)、演算力インフラが挙げられた。この間のラスベガスでの見本市「CES」で、中国企業のロボット犬や電気自動車がスポットを浴び、外国人も感嘆していたシーンを思い出した。新エネルギー車、太陽電池、リチウム電池という「新三様」は2024年に輸出が倍増し、2025年もさらに増えそうだ。自動車や家電で世を支配した以前の日本を思い出すが、それと今の中国は、歩む道は違えど勢いは引けを取らない。襟首をつかまれたファーウェイはそれでも半導体を作り続ける。全人代では製造業や医療、教育を一括りにした「AI+」を提唱しており、実現すれば中国経済もワンランク上に進める。
中国経済という船は、波風が高い中で力強さを備える。全人代が終わった今、海原は厳しいが転覆するほどでもない。窓から見える桜が冷たい風の中で陽光を照らしている。政策に力があれば庶民も期待を抱く。春は確実にやって来る。
(中国経済新聞)