2024年の中国を観察:苦労をいとわず、あきらめず戦う

2024/12/31 08:30

2024年も残すところ数日となった。

12月22日、東京大学で、中国人実業家の訪問団を相手に今年最後の講演会を行った。テーマは「日本の企業はいかにしてバブル崩壊を脱したか」であった。

中国の実業家は押しなべて、「中国経済がこれからどうなるかわからず、自分の会社は生き残れるだろうか」という焦りを抱えている。そこで「当時の日本企業が苦境を脱した方策」を検討課題とした。

2024年は、中国経済がもがき苦しんだ年だった。

下り坂を転がり始めた中国経済に対して政府は、不動産業界の不振に対応する努力をし、内需拡大に尽力し、地方政府の不良債権解消に向けて大量の国債を発行するなど、一連の対策を打ち出した。経済の下押し傾向を食い止め、少しでも早く回復の兆しを見出そうとするものだった。ただ一方、民間の実業家は将来に期待が持てなくなり、政府による一連の経済政策についてもほぼ傍観的で前向きに加わろうとしていない。

こうして中国社会は、懸命に救済に走る政府とそれに興味が湧かない民間、という二極化が進んだ。

このような事態による一番の問題は、政府の一連の景気刺激策にはかばかしい効果が出ず、経済が依然として下り坂をたどることである。

もがき苦しんでいる、という状態である。

2024年の中国で、最も成功し、かつ最もリスクをはらんだ業種は電気自動車(EV)の製造業だった。中国は今、EVの販売台数が全自動車の50%を占めるまでになったが、その一方で新興のEVメーカーが、経済や消費の中で過度な競争にあえぎ、ばたばたと倒れている。2025年はEV市場もサバイバルの様相を呈し、倒産するメーカーがさらに増えるものと見られる。

中国の自動車界では、「今の状態は、各社がひしめいた中で最後に残ったのはたった2、3社、という10年前のスマートフォン業界と同じ」という認識が広まっている。

このような産業競争の中で、民間の資本や資源をどれだけ無駄遣いしているかなど誰も関心を抱かず、「誰がトップに立つか」以外に興味がない。

これは、数年前から変わらない「トップ争い」という中国の土壌である。「勝てば官軍、負ければ賊軍」で、消えた人の数や崩れた山河の数などどうでもいい。ともに大手民間企業であるホンダと日産が経営統合へ歩み出すなどという出来事は、中国ではとても理解できない。

ただしこのような過酷な競争も、世の中の革命や進歩につながるものだから、中国では受け入れられ、代々伝わっているのである。

2024年、中国で最も開放された市場は「低空飛行業界」である。

これまで軍に統制されていた高度3000メートル以下の空域が、全面的に開放されるようになった。

その理由であるが、中国は今、ドローンの製造や配送利用を手掛ける業種が急成長しているからだ。今や世界最大のドローンの製造国となったが、低空空域は軍事管制域であって飛行することができず、これにより業界の成長が大きく妨げられていた。

しかし中国政府がこれらの空域の民間利用を認めるようになり、空飛ぶタクシーやドローンによる宅配事業が生まれていった。国土の広い中国では、都市間を移動するのに車なら3、4時間もかかるが、空飛ぶタクシーはこの距離を大幅に縮める。また、辺鄙な山間部や島しょ部への物資の配達も便利になる。

2024年、中国人はそれぞれ活路を求めた。

AI時代が到来する中で新たな市場を開拓した人もいれば、苦しみ、もがいた人もいた。また会社が倒産したり、失業したり、さらにはよからぬ出来事も頻発した。こうした状況から抜け出し、日本で家を買ったり会社を興したりする人も増えている。

中国人は、40年以上前の改革開放で得られた成果を味わい、バブル崩壊のような事態に遭遇した経験がなく、「明日はきっと今日よりよくなる」とひたすら信じている。よって、経済が坂を転げ落ちると戸惑いを覚え、困り果ててしまう。心構えなど一切なく、このようなもがき苦しむ状態はすぐには止まらない。幸い中国人は生まれつき忍耐力が抜群で、苦労をいとわず、あきらめず戦う。2025年はきっと頑張りの年になるだろう。

年の瀬にあたり、中国経済新聞をご愛読いただいた読者の皆様に心よりお礼を申し上げるとともに、明年も引き続きのご愛顧を願いたい。どうか皆様、よいお年を。

(文:徐静波)

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。