中国の高齢化社会に向けた最新産業政策

2024/06/11 11:30

1.「少子高齢化」が進む人口動態

「少子高齢化」が進む人口動態中国のこれまでの長年の経済発展においては、人口規模による消費需要と労働力供給が大きなサポート要因と見られており、特にこれまでは若年人口が主体を占めていた人口ボーナス効果が大きく働いてきたと言えるが、1980 年代のいわゆる「一人っ子政策」によって生じた人口動態の大きな構造変化により極めて短期間に少子高齢化社会に突入した。

図表1は1978 年の改革開放以降の人口動態の長期的推移を示すものである。2023年末現在の中国総人口は14億 967 万人になっている(人口減に転じた 2022 年より減少幅が拡大)が、人口数も同年年央に遂にインドに抜かれた。出生率と自然増加率は1987年をピークに下がりつつあり、2023年にはそれぞれ6.39%、-1.48%に大きく低下し、死亡率もこれまでの最高水準を記録した。2013年から「一人っ子政策」が緩和され始めたにもかかわらず明確な出生率向上にはつながらず、出生率と人口自然増加率は 2017年以降下がり続けてきた。

図表2の3 層別人口構成比の推移を見ると、0~14歳の年少人口は2004年の21.5%から 2022年の16.9%に低下した(15-64 歳の人口も70.9%から68.2%に下がった)のに対して、65歳以上の人口構成比が同7.6%から2 倍弱の14.9%に高まっており、少子高齢化が急速に進んできた。世界主要国の状況と比べても、中国は東アジアの高齢化進行の速い 4 カ国の一つに数えられ、65 歳人口割合の倍化に必要とした年数は、シンガポール、韓国に次いで 3 番目に少なかった日本を超え、欧米諸国に比べて高齢化のスピードは非常に速い。また15歳から64歳までの労働人口の比率も2010年ピーク時の74.5%から低下して2018 年には71.2%になり、2012年には労働人口数のマイナス成長もついに見られた。2010年を境に、下がり続けていた総合人口扶養比(総合従属人口指数=(0~14 歳人口+65歳以上人口)/15~64歳人口)が右肩上がりに転じるとともに、老年人口扶養比(老年従属人口指数=65歳以上人口/15~64 歳人口)もこれまで以上に増加ペースが加速している。2010年の11.9%から2022 年の21.8%へ高まってきた。つまり、中国の生産年齢人口100 人が老年人口を扶養しなければならならない人数は、2010 年に 11.9 人に、2022年には 21.8 人という計算となり、社会保障を維持するための経済的負担が急速に高まっている※1。

こうした急速な人口構造の変化に対して中国政府は比較的早い時期から対応策を講じてきた。まずは一人っ子政策の段階的な緩和が行われ、同時に社会保障制度の整備充実に注力してきた。2011 年からの第12次5か年計画期を経て2016年以降の第13次5か年計画期(2016~2020 年)に少子高齢化対策がこれまで以上に強化され(国家戦略として多数の関連政策を策定実施、図表 3)、また 2021 年以降の第14次5か年計画期では特に「スマート健康養老産業発展行動計画」(図表1のNo. 21)などの産業に着目した高齢者事業政策が相次いで公布された。そして、今年1月15日には「シルバー経済(銀髪経済)の発展と高齢者の福祉向上に関する意見」という政府文書(図表 4 の No.24)が国務院から公布され注目されている。本稿では主に同政策の主旨概要を紹介したうえで、中国のシルバー経済の発展現状を概観するとともに今後の成長可能性とビジネスチャンスを展望したい。

2.高齢化社会に向けた新たな産業的・経済的政策の公布実施

同文書では、「シルバー経済は高齢者への製品やサービスの提供、高齢化への備えといった一連の経済活動の総体であり、範囲が多岐にわたり、長い産業チェーン、多様な業態、大きな可能性を秘めている」と提起したうえで、高齢化に積極的に対応し、経済発展の新たな原動力を育成し、人民生活の質を向上させるという、シルバー経済の発展と社会の改善に関する同意見文書の公布目的を強調している。また政策実施に関する全体的な要求として、「人口高齢化に積極的に対応する国家戦略を実行し、質の高い発展を推進するよう努める。能力の範囲内で最善を尽くし、効果的な市場と有望な政府のより良い組み合わせを促進し、公的機関と業界の連携を促進し、シルバー経済の規模、標準化、クラスター化を加速し、専門性とブランドを発展させるべきである。」などと要請し、四方面計26項目の取り組み事業(図表 4)を指示した。ここで同意見文による取り組み事業の詳細について重点的に紹介する

「在宅高齢者サービスの拡充」においては、 高齢者介護サービス企業、家事サービス企業、不動産サービス企業に対して、在宅での高齢者支援を奨励している。例えば、コミュニティでの入浴拠点や、移動入浴車、訪問入浴など、様々な形態のサービスの発展をサポートする。また、小売サービスや社会福祉サービス機関に対し、生活支援機能の拡充を奨励することの提起が行われている。その取り組みの中で、「コミュニティ便民サービスの発展」について「15 分コミュニティ生活圏」の構築と、高齢者向けの便利な消費サービスセンターの整備を奨励している。また、高齢者向けの日用品店の適切な配置を促進し、商業施設に高齢者向けエリアや便利な相談窓口を設け支援している。そして、コミュニティ組み込み型のサービス施設の発展を推進し、物流、スマート宅配ボックス、野菜直販車の導入をサポートなどが明記されている。

また、「高齢者の健康サービスの最適化」においては総合病院や漢方医学病院での高齢者医療施設の強化を図り、老年病(高齢に伴う病気)の予防と治療の水準向上を奨励している。これに加えて、リハビリ病院や看護施設の建設を促進し、小規模医療機関のリハビリ、健康管理の能力強化も奨励している。他にも、在宅でのリハビリサービスの拡大や、漢方医学を用いた療養保健分野での利用促進が提起されている。また、「高齢看護サービスの充実」については、地方自治体に対し、高齢者施設の普通療養用と介護療養用の病床数に応じた異なる補助金制度の提案がなされている。さらに、高齢者施設の建設や改修の促進、認知症高齢者向けの専用エリアの設置をサポートしている。これは、医療機関と高齢者施設を隣接させることで、資源の共有を推進し、在宅・コミュニティ・施設間の連携メカニズムの確立を指示している。また「農村の高齢者サービスの向上」については、農村の特別困難者に高齢サービス施設を活用し、委託経営などの方法で高齢者サービスを展開させるとしている。そして、地元の高齢施設や飲食店などが協力して食事支援施設を増やすことをサポートする。農村高齢相互支援型の高齢者サービス、「企業(社会組織)+農家+協同組合」の経営モデルの採用などを明記している。特に「製品提供規模の拡大とシルバー経済の事業主体の育成」に関する「産業クラスターの発展」においては京津冀(北京市・天津市・河北省)、長江デルタ、広東・香港・マカオグレーターベイエリア、四川省の成都市・重慶市などの各地域においてシルバー経済に特化した高度な経済産業クラスターを約10カ所の設立や、自由貿易試験区や開発区、国家サービス業拡大開放総合デモンストレーション区などのプラットフォームを活用し、シルバー経済の国際的な協力推進なども提起されている。

このほか、「多様なニーズに応える潜在的な産業の育成」の項目において、

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