日本航空の旅客機と輸送機の衝突炎上事故後、広州・白雲空港からの依頼

2024/02/29 08:30

1月2日に東京・羽田空港で発生した、日本航空のエアバスA350と海上保安庁の輸送機の衝突炎上事故は、世界中の関心を招いた。「日航の乗務員は機体が炎上した中、どのようにしてわずか数分間で367人の乗客を脱出させたのか」「機体が全焼したのにすべての乗客と12人の乗務員は無事に脱出した。どのような対応をしたのか」と、驚きの目が向けられた。

私は事故の10日後、政府の運輸安全委員会が発表した調査報告を元に、「日航機はいかにして火の中から乗客367人を避難させたか」とのタイトルで、衝突してから最後に機長が脱出するまでの18分間に発生したすべてを記述する記事を発表した。

この記事に対し、中国の航空関係者からかなりの関心が寄せられた。広州の白雲空港の管理会社からすぐに連絡があり、「広州に来て空港の各部署の管理職に対し、日航の乗務員による緊急避難のさせ方を中心に、事故の顛末を詳しく説明して欲しい」とのことだった。今回の日航の対応は教科書レベルに値する、と言うのである。

この招待に私は大変感動した。中国の空港がこれだけ安全問題を重視し、今回の事故から日航の避難誘導のやり方や経験を学びたいというので、私は責任をもって運び役になることにした。

セミナーに向けて、この事故に関する報道を随分と集めた上、日航にも連絡し、ビデオも交えたパワーポイントの資料を作成した。

資料作成のさなかで、2023年の世界各空港で利用者数が最も多いのはアメリカのハーツフィールド・ジャクソン空港、2位がUAEのドバイ空港、3位が東京の羽田空港であることを知った。また広州の白雲空港が10位に食い込んでおり、上海の浦東空港や虹橋空港、北京の首都空港を抑えて中国で唯一ベスト10入りを果たしている。

この理由は何だろうか。

数年前のエチオピアへの取材旅行を思い出した。東京から白雲空港に向かい、さらにエチオピアへ飛んだ。そこで、白雲空港は中国で数少ない国際ハブ空港になっていると感じた。中国ほか東アジアや東南アジアから、アフリカ、中東、一部ヨーロッパ、南米に向かう便のほとんどの乗り継ぎ空港となる。白雲空港の2023年の利用者数はのべ6300万人に達し、中国の各空港の中で「4連覇」を果たしている。

広州に着いたのは2月4日であった。春節の帰省シーズンたけなわであったが、白雲空港は運行管理、税関、消防、武装警察、医療など各部署の幹部300人以上が時間を割いてセミナーに駆け付けてくれた。また広東省内の18の地方空港がオンラインで参加するなど、今回の催しは春節の特別輸送期間における広東省で最大の航空安全研修会となったのである。

このセミナーで私は、事故の1か月後にテレビ朝日が制作した特別報道番組「日航機炎上『乗務員の証言』全容」を放映した。乗務員や乗客への取材を通じて、機体が炎上している中で乗務員が乗客全員を緊急脱出させたすべての状況が明らかにされ、鮮明でダイレクトな印象を与えるものだった。

また、367人の乗客と12人の乗務員が無事脱出できた理由を3点にまとめて説明した。

一、乗務員の沈着冷静な対応。

機体が制御不能となり電気系統が故障した中、機長は機体を駐機場に停めた後、乗客に対して機体前方の左右の非常口を開けて脱出用スライドを降りるように指示した。後部の客室乗務員はアナウンスシステムが故障して機長の指示が届かない中、緊急脱出時のマニュアルに沿って本人の判断で非常口を開け、乗客をスライドから逃げさせた。また客室乗務員は、エンジンと翼が炎上していたことから乗客の安全を考えて中間の4つのドアを開けず、直ちに懐中電灯を持って乗客を誘導し前のドアから脱出させた。367人の乗客はわずか2分あまりで全員が脱出しており、乗務員の冷静な対応や十分な訓練を積んだプロ意識が示された。

二、乗客が一致団結し、荷物を持たなかった。

客室乗務員は乗客を降ろす際に、「貴重品のみを衣服のポケットに入れ荷物を持たずに脱出するように」と繰り返し訴えた。また脱出のさなかに、乗務員に協力して荷物を持たずすぐにスライドを降りるように呼びかける乗客もいた。つまり、全員が短時間で無事脱出できたのは、乗務員と乗客が一致協力した成果なのだった。

三、機長が機内全体を調べる責任感を備えていた。

機長は、乗客が脱出した後に副操縦士2人に機体前部を調べさせ(パニックになった1人を発見、脱出まで見守った)、さらに煙や炎の立ち込める中間部を通り抜けて最後列まで見回り、機内に乗客や乗員がいないことを確認し、最後に1人で後部のスライドから脱出した。

今回の講演が白雲空港の安全管理や緊急避難の教育にどれだけ役に立ったかは知らないが、しきりにうなずいたり、「ビデオを少し遅くして」と求めたりした参加者の様子から、日航の乗務員の見事な避難の対応法や経験について学びたいという心からの気持ちを感じることができた。

白雲空港は、ちょうど三期目の拡張工事を終えたばかりである。大きな空港はおおむねターミナルを3か所設けるが、この空港はT1、T2の両ターミナルとを結ぶ2本の通路を建設したほか、新たに35か所の搭乗口を造り、ターミナル1か所の空港としては世界最大となった。通関やトランジットを一つのターミナルの中で済ませるというできるだけ便利なスタイルとして、「経由便」をスピーディーで円滑なものにしている。

貪欲に学ぼうとする会社は、間違いなくひたむきに向上する会社になるはずだ。

(中国経済新聞 編集長 徐静波)

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。