シノバックとはいかなる会社か

2022/05/6 17:01

シノバックとはいかなる会社か

コロナの発生から3年近く経った中、中国の医薬品会社「シノバック」(SVA.US)の名が世界に鳴り響いている。同社のワクチンは中国国内だけで8億人が接種し、さらに海外へ28億人分が行き渡っており、世界保健機関(WHO)も緊急時の使用を承認している。

シノバックが4月30日発表した2021年の業績を見ると、全社の売上高は193.75億ドル、利益は144.6億ドル、開発費用が1.55億ドル、利益率は74%で、売上高のうち国内分が109億ドル、その他が85億ドルであった。

以上の数字から、シノバックはわずかな費用で莫大な利益を生んでいることが分かる。その根本的な理由は、政府からの大量の受注である。

安徽省の医薬品一括購買部門によると、シノバックのワクチンは2020年12月に1回分200元(約3920円)で購入されていたが、2021年1月にブラジルが1億回分を購入した際は58.2レアル(約1370円)であった。国内価格が輸出価格のおよそ3倍なのである。

莫大な利益の裏にある事実をのぞいてみよう。

正式社名「科興控股生物技術有限公司」であるシノバックは、科興控股(香港)有限公司と北京北大未名生物工程集団の合弁により、ハイテク企業が集中する北京の中関村高科技園区で2001年に設立されたバイオテクノロジーの会社である。

公開資料によると、社長兼CEOの尹衛東氏は1964年に河北省唐山市で生まれ、1982年に唐山衛生学校を卒業、シンガポール国立大学でEMBAを取得しており、バイオメディカルの上級エンジニア(教授クラス)である。

尹衛東氏

尹衛東氏は、贈賄の嫌疑をかけられた経験を持つ。2016年の北京中級裁判所の判決書によると、自社で開発したA型肝炎、鳥インフルエンザ、A型インフルエンザなどのワクチンの承認を急ぐため、2002年から2011年にかけて、国家食品薬品監督局の薬品審査部門で副主任を務めていた尹紅章氏とその妻に55万元余りを渡していたことを認めた。尹衛東氏は当時、相手の請求を断り切れなかったと述べた。その後、尹紅章氏は10年間の実刑判決を受け、尹衛東氏は証人や検察院の協力により不起訴処分となった。

尹衛東は、創業者でありながらシノバックへの出資率はわずか8.89%で、筆頭株主はソフトバンクの100%子会社であるSAIF Partners IV(中国名「賽富基金」)で、15.07%を出資している。

中国でワクチンの製造業界は、2017年ごろは市場規模が151億元程度の「マイナー業界」であった。その数年前に国産のワクチンで改ざん問題があり、資本家に敬遠される存在になっていたのである。

このさなかに、孫正義氏率いるソフトバンクがシノバックに目をつけ、都合あわせて30億元(約586億円)をつぎ込み、押しも押されぬ筆頭株主となった。一方で中国国内からの出資は2020年からであった。ソフトバンクは抜群の見通しを立てていたのである。

ワクチンで大儲けしたシノバック。その最大の受益者はソフトバンクなのであった。

(中国経済新聞 速水静)