5月26日、中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)が大胆な価格戦略を発表し、業界に衝撃を与えた。22車種の価格を最大5.3万元(約100万円)引き下げるというこの決定は、即座に市場の反応を引き起こし、同日中に同社の時価総額が1200億元(約2.3兆円)も蒸発する事態となった。
比亜迪の今回の値下げは、新エネルギー車市場での競争激化に対応するための戦略だ。例えば、人気モデル「海豹07 DM-i智駕版」は15.58万元から10.28万元に、「秦PLUS DM-i智駕版」は6.38万元からという破格の価格に設定された。この大幅な値下げは、新規顧客を引きつける一方で、既存のオーナーや直近で購入した顧客からの反発を招いた。新車を購入したばかりの顧客は、購入直後に大幅な値下げにより車両価値が下落したことに不満を募らせ、SNS上では「裏切られた」との声が飛び交った。一方、従来のオーナーもブランド価値の低下を懸念し、販売店にはクレームの電話が殺到。ある販売員は「毎日クレーム対応で頭がパニック状態」と語るほど、現場は混乱に陥っている。

この大胆な値下げの背景には、中国の新エネルギー車市場の激しい競争がある。現在、中国の新エネルギー車の市場浸透率は35%に達し、成長が鈍化しつつある。テスラや広汽埃安(GAC Aion)など、国内外の競合他社が相次いで値下げを実施しており、比亜迪も市場シェアを維持するために価格競争に参入せざるを得なかった。特に、テスラの価格戦略は中国市場全体に影響を及ぼしており、比亜迪にとって無視できない圧力となっている。
しかし、この価格戦争は比亜迪にとって諸刃の剣だ。値下げにより販売台数は短期的には増加する可能性があるが、ブランドのプレミアム価値が損なわれ、長期的な収益性に影響を及ぼすリスクがある。実際に、今回の値下げ後、比亚迪のブランド溢価率(プレミアム率)は低下し、顧客からのクレーム件数は前年比で370%も急増した。
(中国経済新聞)