中国飲料大手・娃哈哈(ワハハ)が大きな岐路に立たされている。創業者・宗慶后氏の死去から半年余り、長女であり実質的な後継者の宗馥莉(ゾン・フーリー)氏が、2026年の新販売年度から新ブランド「娃小宗(ワ・シャオゾン)」を全面展開する方針を固めた。
国民的ブランドとして約40年にわたり親しまれてきた「娃哈哈」が事実上の看板替えを迫られる構図だ。
創業者不在が引き金に
1987年に宗慶后氏が立ち上げた娃哈哈は、「ADカルシウム乳」「營養快線」などヒット商品を武器に、中国を代表する清涼飲料メーカーに成長した。だが、創業者の死後、遺産をめぐる家族間の確執と株主間の対立が表面化。
現行の株式構造は、杭州上城区文商旅投資控股(国有系)が46%、宗馥莉氏が29.4%、職工持株会が24.6%を保有しており、商標使用に関しては全株主の合意が必要とされる。このため、「娃哈哈」ブランドの継続使用は法的リスクを抱えることになった。

「娃小宗」立ち上げの実情
複数の関係筋によれば、宗氏が実質的に掌握する「宗勝系」企業群——杭州娃哈哈宏輝食品飲料、浙江娃哈哈食品飲料营销、杭州宏勝营销、拉薩宏勝营销など計7社が、新ブランド「娃小宗」を中心に事業を再編中だ。既に安徽省巣湖市や貴陽市、成都などで関連会社の名称変更が進み、宗氏自身が新会社の執行董事に就任するケースもある。
2024年に900億元(約1兆8,500億円)を超えると評価された「娃哈哈」ブランドを自ら手放す決断は、株主対立を回避するための「苦肉の策」ともいえる。
浮き彫りになる経営リスク
しかし、経営現場や流通現場からは不安の声が相次ぐ。ある娃哈哈社員は「生産は平常通りだが、新ブランドが市場でどう受け止められるかは不透明」と語る。
かつて娃哈哈分公司総経理を務めた李臨春氏も「宗馥莉氏の判断は、株主・経営陣・販売代理店・従業員を分断するリスクを抱える」と指摘する。
とりわけ販路の信頼獲得は大きな課題だ。元幹部の一人は「経営者個人よりも『娃哈哈』ブランドを信じて取引してきた。看板が変われば、従来通り協力するとは限らない」と明かす。9,000億円規模のブランド価値を失う影響は小さくない。
生き残りを賭けた「豪賭」
宗馥莉氏にとって「娃小宗」への移行は、既存ブランドに縛られた経営構造を脱却するための独自路線であると同時に、巨大ブランドを捨て去る危険な賭けでもある。新ブランドが市場でどこまで浸透するか、また司法判断によって株式や商標問題がどのように決着するかが、今後のグループの命運を左右する。 創業者不在後の混迷期に差しかかる娃哈哈。中国の国民的ブランドの行方は、今まさに歴史的な分水嶺にある
(中国経済新聞)