ロボット産業の進化加速 兆円規模の新市場が始動

2025/09/13 17:30

 9月8日に閉幕した「2025世界工業インターネット大会」では、再びロボットが主役となった。会場では、人型ロボットが正確に水を注ぎ渡すデモンストレーションが披露され、また企業各社が多様なシーンでの応用を紹介。ロボットが単なる機械的な作業者から、知能と「魂」を備えた“パートナー”へと進化し、兆円規模の新たな市場を切り開きつつあることを印象付けた。

 会場内、新松ロボット展示区で記者が「水を一杯お願いできますか」と指示を出すと、人型ロボットは素早く給水機とコップを認識、自律的に経路を計画し、両腕を協調させて水を注ぎ、来場者に手渡した。その一連の動作は滑らかで、観衆から驚きの声が上がった。

 沈陽新松ロボット(Shenyang Siasun Robot & Automation Co., Ltd.)のソフトウェアエンジニア・韓慕鑫氏は、「従来は産業用アームや巡回車、清掃ロボットなど、主に工業現場の基礎作業を代替する機種を展示してきました。今回の人型ロボットはより敏捷で賢く、そして人間らしさを備えています」と説明する。

 この「人型化」への流れは業界の共通認識となっている。ユビテック(UBTECH)は、人型ロボット「Walker S2」を発表。3分以内でバッテリー交換が可能で、24時間365日の稼働に対応する。床面に手をつく動作や深い屈伸、遠距離の把持など、高度な動きを実現し、多様な産業シーンに適応できる。テスラは2025年に自社工場で1,000台以上の「オプティマス(Optimus)」を導入し、複雑な生産業務を担わせる計画を明らかにしている。

 一方、人型ロボットは“働く”だけではなく、コミュニケーション能力も高めている。テンセントの展示区では、Tairosプラットフォームを搭載したロボットが来場者と自然に対話。質問を理解し、環境情報と統合した応答を行った。スタッフの邱燃氏は「このプラットフォームはロボットに“大脳”を与えるもので、多モーダル認識とタスク計画を統合しています。既に家電や自動車産業で試験導入されています」と話す。

 中国科学院瀋陽自動化研究所の蘭大鵬副研究員は、「従来の産業用ロボットは座標に基づいた反復作業に限定されていました。人型ロボットはセンサーを統合し、物体の属性や空間関係を理解し、感知・判断・自律的な意思決定を行います」と指摘する。

 この研究所のブースでは、スタッフがVRゴーグルを装着し、ロボットを遠隔操作して物体の把持・搬送を実演。ロボットは人間の動きを模倣するだけでなく、学習を重ねることで自律的にタスクを遂行できるようになる。「人型ロボットには思考する“大脳”があり、自然言語の指令を理解し、自主的に作業手順を計画し、失敗から学習することさえ可能です」と蘭氏は語った。

 ロボットの歴史を振り返れば、1958年に米国の発明家ジョセフ・エンゲルバーガーが初の産業用ロボット「ユニメート(Unimate)」を開発し、1961年にはGMの自動車生産ラインに導入されたのが始まりだ。中国では2000年に初の人型ロボットが登場し、身長1.4メートルで歩行と簡単な会話が可能であった。その後20年以上を経て、中国のロボット産業は「後進」から「追随」、そして一部分野では「先行」へと進化を遂げた。

 2024年には、中国のロボット関連特許出願数は世界全体の3分の2を占めた。大連ティエス(TS Technology Development Co., Ltd.)の李博陽CEOは「AIの進化により、人型ロボットはもはや踊るマスコットではなく、実際の作業を担う“知能アシスタント”となりました」と強調する。

 業界では、人型ロボットの形態が選ばれる理由として「人間社会の設計が人間を基準にしている」点が挙げられる。階段や椅子、工具やキーボードなどは人体構造に合わせて設計されており、人型ロボットは環境を改造せずに活用できるため、社会への導入が迅速に進むと期待されている。

 中国電子学会は『2025人型ロボット十大潜在応用シナリオ』において、産業汎用操作、自動車製造、3C製造、船舶建造、石油化学、発電、安全対応、商業サービス、家庭サービス、農業生産といった10分野を挙げている。学会の徐暁蘭理事長は「今後、人型ロボットは製造、物流、家政、教育、医療などで活躍し、新消費を喚起するとともに、新産業や雇用を生み出し、新しい生産力を形成するでしょう」と語った。

 ただし、現段階では商業化初期であり、コストや信頼性、安全性の面で課題が残る。大会に参加した一部企業経営者は「業界は“見せ技術”に留まらず、実際の利用シーンの課題解決に注力すべき」と指摘。人型ロボットは人間のような動作を模倣するために高度な感知・判断・制御能力が必要であり、特に家庭など変化に富む環境に対応するにはコスト削減と安全性向上が不可欠だとする。

 こうした課題を踏まえ、2023年には工業情報化部(工信部)が『人型ロボット革新発展ガイドライン』を発表。人型ロボットをコンピューター、スマートフォン、新エネルギー車に続く「破壊的製品」と位置づけ、世界産業の再編を促す可能性を示した。

 『中国人型ロボット産業発展研究報告(2024年)』によれば、2045年以降、中国で稼働する人型ロボットは1億台を超え、市場規模は約10兆元(約205兆円)に達すると予測されている。中国電子学会の陳英副理事長は「国内のロボット関連企業や上場企業は、京津冀、長江デルタ、珠江デルタに集中し、北京・上海・深圳を中心とした産業クラスターが形成されつつあります」と述べた。

 地方政府も先行投資を強化。北京市は3年以内に具身知能分野で50社以上のコア企業を育成し、100件の大規模応用を推進、1,000億元(約20兆5,000億円)規模の産業集群を構築する方針。上海市は2027年までに産業規模5,000億元(約102兆5,000億円)を目指す。深圳市もロボットのコア部品、AIチップ、融合技術に注力し、2027年までに大きなブレークスルーを狙うとしている。

(中国経済新聞)