比亜迪タイ工場、初の欧州向け電気自動車輸出

2025/08/28 10:00

中国を代表する自動車メーカー、比亜迪(BYD)がタイの工場から初めて欧州市場に向けて電気自動車を輸出した。この動きは、タイ政府が電気自動車生産企業の海外進出を奨励し、タイを電気自動車の輸出拠点として位置づける政策の一環として注目されている。2025年8月25日、比亜迪汽車(タイ)有限公司は、タイの工場から900台以上の「海豚(ドルフィン)」モデルを欧州市場に輸出したと発表した。輸出先にはドイツ、ベルギー、オランダが含まれる。

比亜迪のタイ工場は、2024年7月に稼働を開始した同社初の海外乗用車生産拠点である。ロヨン府に位置し、敷地面積約94.8万平方メートル、年間生産能力は約15万台を誇る。この工場は、プレス、塗装、溶接、組み立ての全工程をカバーし、部品生産も行う総合的な生産施設だ。比亜迪は2024年7月4日、この工場の竣工式と同時に同社の800万台目の新エネルギー車(NEV)の生産を祝った。このマイルストーンは、比亜迪がグローバルな電気自動車市場でのリーダーシップを象徴するものとなった。

今回の欧州向け輸出は、タイ工場の生産能力を最大限に活用するための戦略の一環だ。比亜迪のタイ事業関係者は、現在の工場稼働率がまだ十分ではなく、輸出を通じて生産能力の消化圧力を軽減する必要があると述べている。タイの電気自動車市場は成長しているものの、需要が生産能力に追いついていない。2025年7月のタイ投資委員会の発表によると、タイには21の純電気自動車生産プロジェクトがあり、総投資額は410.8億バーツ(約1200億円)、年間総生産能力は38.6万台に達する。しかし、2024年のタイ国内の電気自動車販売台数は約7万台、2025年上半期は約5.7万台にとどまり、供給が需要を大きく上回っている。

タイ政府は、2030年までに電気自動車の生産を自動車総生産の30%に引き上げる「3030政策」を掲げ、電気自動車産業の発展を強力に推進している。この政策のもと、電気自動車購入に対する補助金(7~15万バーツ)、消費税の軽減(8%から2%)、道路税の80%減免、輸入関税の免除など、さまざまな優遇措置が導入されている。一方で、タイ政府は海外企業に対し、2025年末までに輸入台数と同等の電気自動車を現地生産することを求めている。

こうした環境の中、比亜迪をはじめとする中国の自動車メーカー(上汽、長城、広汽埃安、哪吒など)はタイ市場に積極的に参入し、現地生産工場を設立している。2023年、タイの電気自動車市場における中国ブランドのシェアは80%に達し、比亜迪は市場シェア41%で18カ月連続で純電気自動車販売首位を維持している。 しかし、タイの市場規模は限られており、過剰な生産能力と在庫増加が課題となっている。元上汽タイ勤務の関係者は、タイ国内市場がこれほどの生産能力を吸収できないため、価格競争が激化し、企業にとって収益性が低下していると指摘。輸出は、この課題を解決する不可避な選択肢となっている。

比亜迪のタイ工場からの初の欧州輸出は、同社のグローバル戦略の一環だ。輸出された「海豚」モデルは、英国、ドイツ、ベルギー、オランダなどの市場で販売される。比亜迪はすでに欧州市場で一定の成功を収めており、2023年には「ATTO 3」が英国で「2023年度最佳電気自動車」に選ばれた。 また、2025年3月には、比亜迪の執行副社長李柯氏が、2025年3月または4月に欧州での販売が大幅に増加すると予測。タイ工場は東南アジアだけでなく、欧州やオーストラリアなどの右ハンドル市場にも対応可能な生産拠点として、比亜迪のグローバル展開を支える重要な役割を果たす。

タイ政府は、電気自動車産業を育成し、タイを東南アジアの電気自動車製造・輸出ハブとすることを目指している。比亜迪のタイ工場は、このビジョンに大きく貢献する存在だ。工場は現地で約8000人の雇用を創出し、タイの自動車産業のサプライチェーン強化にも寄与している。 しかし、過剰生産と価格競争による収益圧迫は、比亜迪を含む中国車企にとって引き続き課題となる。欧州市場への輸出拡大は、タイ工場の生産能力を有効活用し、収益性を高めるための重要な一歩だ。

比亜迪は今後、タイでさらに多様な純電気モデルやプラグインハイブリッド車を導入し、現地生産を強化する計画だ。 タイを足がかりに、東南アジアや欧州市場でのシェア拡大を目指す比亜迪の動向は、グローバルな電気自動車産業の未来を占う上で注目に値する。

(中国経済新聞)