はじめに
24年中国の貿易黒字は9,922億ドルと過去最高記録を更新した。24年実質GDP成長率5.0%のうち純輸出の寄与度1.5%と、内需不足の中、成長の押し上げ要因となった。地域別にみた輸出は「ASEANが最多」と説明されるが、単一国別では対米貿易が依然として最大であり、対日貿易は輸出入ともに減少傾向にある。
本稿では、中国の輸出高度化の進展を紹介した上で、黒字対策の行方を分析する。
1. 貿易黒字は過去最高を記録
WTO加盟後黒字は44倍、貿易総額は12倍に24年中国の貿易黒字は9,922 億ドルと過去最高記録を更新※1、中国がWTOに加盟した01年当時(225億ドル)の44倍である(図表1)。

輸出と輸入を足し合わせた貿易総額は24年に6兆1,622億ドルと、01 年(5,097 億ドル)の12倍となっている。24年実質GDP成長率5.0%のうち貿易黒字により構成される純輸出の寄与度は 1.5%と、内需不足が続く中、成長押し上げ要因となった。四半期別にみると、7~9月に2.1%、10~12月に2.5%と同期の実質GDP成長率(7~9月4.6%、10~12月5.4%)の半分近くが純輸出の寄与となっている(図表2)。

貿易黒字拡大の背景として、輸出面ではトランプ政権発足前の対米駆け込み輸出、輸出品目の付加価値向上に、輸入面では内需不足による落ち込みが挙げられる。
2. 21 年からコロナ特需で輸出急増
図表2 実質GDP成長率需要項目別寄与度の推移輸出入ともに21年に急増、このうち輸出は四年連続で3兆ドル台を維持している。20年以降のコロナ禍下でリモートワークのためのPC、タブレットや、自宅で過ごすための家電買い替えなどの「コロナ特需」が発生した他、ゼロコロナ政策奏功の下、中国国内で生産活動が相対的に機能していたことも、この間の貿易活性化の要因として挙げられる。
また、輸入は17年に始まった輸入博(中国国際輸入博覧会、CIIE)で当局の輸入拡大方針が明確※2になり、17、18 年の輸入は二けたの伸びとなったが、コロナ禍以降の景気回復が遅れ、内需不足が続いていることから、輸入は輸出を下回る伸びとなり貿易黒字の拡大に繋がった。
3. 米中摩擦以降、輸出入先の多角化が進展
輸出を地域別にみると、対米輸出比率は米中摩擦が激化した18年当時の19.3%から24年は14.7%まで低下した。アジアの比率は24年に22.6%と最大で、18年の19.3%から上昇している(図表3)。また、18年と24年を比較すると、欧米日の比率はいずれも低下した一方、アジア、BRICs、中南米、中東の比率が上昇しており、輸出先の多角化が進展している。

輸入においても、欧米日の比率低下と、アジア、BRICs、中南米、中東の比率上昇の傾向がみられる。日本は輸出入ともに比率を低下させており、低コストのメリットを活用した中国での組み立て加工型の貿易(原材料部品の輸入と完成品の輸出)縮小を反映している。
4. 輸出品目の高度化進展。EVほか自動車輸出も23年世界一に
品目別にみると、輸出は合計の4割を占める機械類及び電気機器が+5.5%、同1割弱を占める紡織用繊維およびその製品が+1.2%と輸出合計の伸び(+5.9%)を下回った一方、同じく1割弱を占める車両、航空機、船舶が+19.7%と急増、このうち車輛が+12.2%、船舶は+56.1%と主要品目の中で最大の伸び率となった(図表4)※3 。

自動車輸出は23年に前年比57.9%増、491万台と、22年( 54.3%、311 万台)に続き5割以上増加、日本の442万台を上回り世界一となったのに続き、24年も19.3%増え586万台と 600 万台に迫る規模である(図表5)。輸入品目では、合計の3割を占める機械類及び電気機器に次ぐ規模で同じく3割近くを占める鉱物性生産品が▲0.9%と減少した。これには「原油(輸入価格は▲9%下落)を含む国際商品価格の影響もある」(海関総署1月13日会見。脚注1)。また、車両は▲11.9%と三年連続で減少した。
5. 黒字拡大を受けた為替調整の可能性(おわりに)
25年について、対中関税引き上げ方針を表明している米国の動き次第ではあるが、24年中に発生した駆け込み輸出の反動で輸出は鈍化が見込まれる。また、関税引き上げの影響を相殺するために、為替レートを人民元安傾向に誘導して競争力を維持する選択肢がある。一方、貿易黒字が過去最高となったことを受け、05~08年に起きたように※4為替レートを人民元高方向に調整することで黒字幅の削減を図るシナリオも想定される。
注
※1 国務院新聞弁公室25年1月13日「国新办举行“中国经济高质量发展成效”系列新闻发布会介绍2024年全年进出口情况」 http://www.scio.gov.cn/live/2025/35357/tw/
※2 日本経済新聞18年11月10日「40兆ドル中国、巨額の輸入目標」。習近平国家主席が今後15年間に40 兆ドルの輸入目標を表明。
※3 中国工業情報化部によれば、中国の造船所が24年に受注した新造船は載貨重量トンベースで世界の受注量の74.1%と圧倒的なシェアを占めた。時事通信1月23日
※4 RMB/USD(年平均)05年8.1917から08年平均6.9451まで累計+17.9%上昇(各年の上昇率:05年%
1.0%、06 年+2.8%、07年+4.8%、08年+9.5%)。
(文:みずほ銀行 細川 美穂子)
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みずほ銀行
中国営業推進部 上席主任研究員 細川 美穂子 : mihoko.hosokawa@mizuho-bk.co.jp
1988 年慶応義塾大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、調査部にてアジア及び中国経済担当。02年みずほ総合研究所出向。 05~08年北京支店、11年4月~23年1月まで上海駐在、瑞穂銀行(中国)有限公司中国アドバイザリー部 中国業務部主任研究員。同年1月より現職。これまで週刊エコノミスト、東亜 他多数メディアにて、現地発中国マクロ経済に関する記事を連載。
(出典:MIZUHO CHINA MONTHLY レポート 2025年2月号 P1-P4)