5月14日、米大統領ドナルド・トランプ氏の訪中に同行した米電気自動車大手テスラのCEOイーロン・マスク 氏が、6歳の息子X君とともに北京の人民大会堂に姿を見せた。その際、X君が身につけていた中国風の虎頭バッグがSNSで大きな話題となった。

このバッグは、中国・広西チワン族自治区桂林市の文化ブランド「芽小七手創」が手掛けるオリジナル商品で、価格は398元(約9300円)。写真が拡散された当日、同ブランドの淘宝(タオバオ)店舗では売り上げが十数倍に急増したという。
バッグのデザインは、中国西北部に伝わる伝統的な「虎頭帽」や「虎頭靴」から着想を得たものだ。ただし製作自体は“広西メイド”で、桂林周辺の刺繍職人たちが一つひとつ手作業で縫い上げている。職人たちは広西の無形文化遺産にも指定される刺繍技術を受け継いでおり、その技と地域文化が細部に込められている。

デザイナーは甘粛省を訪れて現地文化を研究し、伝統的な虎のモチーフを取り入れた。バッグの舌部分に刺繍されたヒキガエルには「財を呼び込む」という意味があり、鼻部分の蝶の刺繍には「福が重なる」という願いが込められている。
虎は古くから中国民間信仰において、邪気を払い福を招く守り神とされてきた。「虎は百獣の王であり、魔を退ける存在」と考えられ、重慶、山西、福建、湖南など一部地域では、「虎」と「福」の発音が近いことから、「福をもたらす象徴」として親しまれている。
そのため、中国では虎の意匠が子どもの帽子や枕、衣服などに多く用いられてきた。病気や災いから子どもを守り、健やかな成長を願う家族の思いが、一針一針に込められている。「虎頭虎脳(元気でたくましい子)」「生龍活虎(活力に満ちた様子)」といった言葉も、こうした文化背景を反映している。
春節や元宵節、新生児の誕生100日祝い、1歳の誕生日など、特別な節目に虎頭帽や虎頭靴を贈る習慣も中国各地に残っている。
近年は、こうした中国の虎モチーフの布工芸品が海外でも注目を集めている。江蘇省南京市の無形文化遺産「虎頭靴」技術継承者・呉麗花氏は、従来の平面的な虎頭デザインを3D立体化し、通気性の高い綿麻やウール素材を採用。さらに大人向けサイズも展開し、SNSを通じて米国、フランス、英国などへ販路を広げた。
虎頭靴は、海外で暮らす中国人にとって故郷を思い出させる存在にもなっている。山東省聊城市の職人・劉桂栄さんが手掛ける虎頭靴は、刺繍や伝統技法を駆使して制作されている。かつて日本に留学していた中国人学生が帰省中にその虎頭靴を目にし、幼少期の記憶がよみがえったことから、十数足を購入して日本へ持ち帰ったという。持ち帰ったのは単なる靴ではなく、故郷への思いそのものだった。
このほかにも、山西省の「布老虎」、甘粛省慶陽市の虎頭香包、山西省黎城県の「黎侯虎」など、中国各地の虎をモチーフにした民間工芸品が海外市場へ広がっている。
小さな布製品に込められた祝福は、言葉を超えて世界へ伝わり始めている。中国の無形文化遺産は、精巧な技術だけでなく、人々の願いや愛情までも携えて海を渡っている。
(中国経済新聞)
