マスク氏の息子Xが着用した新中式ベストが話題 ブランド躍進の舞台裏とは

2026/05/17 16:30

がトランプ米大統領の訪中に同行した際、幼い息子「X」が着用していた中国風ベスト「杏林春燕」が、中国国内で大きな話題となっている。

人民大会堂に姿を見せた6歳のX君は、淡いブルーグレーの新中式(現代風中国伝統スタイル)のシルクベストに、虎の刺繍入りバッグを合わせた装いで登場。その愛らしい姿がSNSで急速に拡散され、中国伝統文化を取り入れたファッションへの注目が高まった。

公開情報によると、この「杏林春燕」(Xing Lin Chun Yan)と名付けられた斜め襟ベストは、100%桑蚕シルクを使用したもので、中国の小規模カスタムブランド「誰裁初」(Shui Cai Chu)が手掛けた商品だ。

この出来事をきっかけにブランドへの注目も一気に高まり、同モデルの商品は短期間で完売した。

ブランドの広報・マーケティング統括を担当する杜欣然氏は、浙江省余姚市出身で、余姚市北京商会のメンバーでもある。今回の“爆発的話題化”について、杜氏とチームは「驚きでもあり、努力が報われた瞬間でもあった」と振り返る。

杜氏によると、5月13日、ブランドのオンラインショップに「6歳の男の子向けの中国風衣装を急ぎで購入したい」という問い合わせが入った。

スタッフはすぐに顧客対応を開始し、ブランド創業者も直接やり取りに参加。子どもの年齢やサイズを確認したうえで、最終的に2着の衣装が購入された。商品は北京・亦庄の実店舗から即日配送され、問い合わせから発送完了まで約1時間だったという。

当時はごく普通の注文だと考えられており、誰もその後の展開を予想していなかった。しかしその後、Musk氏と息子の写真や動画がSNSやメディアで急速に広まり、チームは初めて購入者の正体に気づいた。

「最初は常連客から送られてきた写真を見ても、AI画像かと思ったほど信じられませんでした」と杜氏は笑う。

当時、ブランドの共同創業者2人は蘇州で新商品の開発打ち合わせ中だったが、ニュースを知るとすぐに社内対応を開始。ベストの在庫確認やブランド資料の整理など、急増する問い合わせへの対応に追われた。5月15日正午までに、準備していた子ども用・大人用合わせて約100着の「杏林春燕」シリーズは完売。その後、予約販売へ切り替えられた。

杜氏によれば、生地は蘇州の無形文化遺産継承職人による特注の織物・染色技術を使用しており、供給不足の影響で、従来約1週間だった製作期間は約1カ月半に延びているという。

また、5月15日だけの売上は、それ以前の1カ月以上分に相当。ライブ配信の最大閲覧数は80万回に達し、同時視聴者数も通常の20〜30人から約1500人へ急増した。関連アカウントのフォロワー数も2〜3倍に増加した。

杜氏は、「今回の注目を、一時的な話題で終わらせたくない」と語る。「大切なのは、この機会を通じてより多くの人にブランドを知ってもらい、製品力とアフターサービスで長期的な支持につなげることです」と強調した。

「誰裁初」は2020年に、黄怡氏と安妮莎氏の2人の女性デザイナーによって設立された。中国初の「家族」をコンセプトにした新中式ブランドを掲げ、子どもや母親、家族全体に向けた“愛情と縁起”を込めた服作りを目指している。

杜欣然さん(中)と2人の創業者たち

ブランド名「誰裁初」は、中国・唐代の詩人 賀知章 の代表作『詠柳』の一節「不知細葉誰裁出、二月春風似剪刀(細い柳の葉を誰が切り出したのだろうか。二月の春風はまるでハサミのようだ)」に由来している。この句は、春の訪れと、柳の若葉がまるで春風によって美しく切りそろえられたかのように見える情景を描いた名句として知られている。

現在、「誰裁初ブランドの主要サプライチェーンは蘇州にあり、蘇州刺繍など無形文化遺産の継承者と協力。中には高級ブランド「Dior」の刺繍制作を手掛けた工房も含まれている。

一方、杜氏は故郷の浙江省についても、「豊かな文化土壌と成熟した産業基盤があり、将来的にさらに深く協力できる可能性がある」と期待を寄せる。

SNS時代の急激な注目については冷静な姿勢も見せる。「流行は早く来て、早く去るものです。大切なのは、地道に良い製品を作り続け、中国伝統文化の魅力をデザインを通じて伝えていくことだと思います」と語った。

(中国経済新聞)