スマート時代における世界のモバイル通信業界の三大課題

2026/03/9 11:30

20年前、世界モバイル通信大会がスペイン・バルセロナに拠点を定めた当時、主流だったのは折りたたみ式携帯電話だった。しかし2026年の同大会では、宇宙飛行士が宇宙空間から地上へ高精細な映像でビデオ通話を行った体験を紹介し、通信技術が新たな発展段階に入ったことを印象づけた。

今年の展示会のテーマは「スマート時代」。人工知能の急速な発展を背景に、モバイル通信業界は大きな転換期を迎えている。一方で業界関係者の間では、①人工知能の普及に伴うデジタル格差の拡大、②通信詐欺や精巧な偽造映像などの安全上の問題、③制度整備の遅れや規制の分断という三つの大きな課題が共通認識となっている。

会場では、通信業界が連携してデジタル基盤を強化し、より安全で誰もが利用できるスマート社会を構築すべきだとの方向性が示された。

デジタル格差の是正:人工知能の恩恵を世界へ

世界移動通信事業者団体(GSMA)の会長ヴィヴェック・バドリナット氏は、「次の人工知能の革新は世界のどこから生まれても不思議ではない。その前提は、すべての人がつながっていることだ」と強調した。

同氏によると、世界では依然として約3億人がモバイル通信網の未整備地域に暮らしており、さらに通信圏内に住みながら約31億人がモバイルインターネットを利用していない。こうした「未接続人口」は、人工知能が生み出す経済的・社会的価値から取り残される恐れがある。

加えて、現在主流となっている大規模な人工知能モデルはごく少数の言語データを中心に学習しているため、多くの人々が母語で人工知能サービスを利用できない現実も、格差拡大の要因となっている。

格差解消の鍵は、通信基盤を高度な情報処理能力を備えた基盤へ進化させることにある。バドリナット氏は、通信網が人工知能の発展を支える重要な社会基盤になるとの見方を示し、計算資源の効率的な配置やモデル開発能力の向上において通信事業者が担う役割は大きいと述べた。

特に中国の通信事業者が推進する「5G高度化技術」は世界的にも注目を集めており、次世代通信基盤の整備モデルとして国際的な参考事例となっている。

また、中国電信と中国聯通は、技術・建設・運用面の数々の課題を克服し、大規模な第5世代移動通信網の構築経験を共有している。中国電信の劉桂清総経理は、人工知能モデルの開放と共有、応用分野の普及を通じて、革新の成果を世界全体に広げるべきだと訴えた。

国際情勢の分断が進む中でも、通信分野では円滑な接続が不可欠である。第5世代移動通信のさらなる普及により、モバイル決済、精密農業、デジタル教育、遠隔医療など幅広い分野で社会的な利益が拡大すると期待されている。

安全対策の強化:信頼こそ競争力の源泉

インド大手通信会社の創業者スニル・バルティ・ミッタル氏は、「接続性は社会の生命線だが、それ以上に重要なのは信頼である」と述べた。

現在、精巧な偽造映像技術の悪用や重要な情報基盤への攻撃など、デジタル空間における脅威は急速に増加している。フランスの通信会社オランジュの最高経営責任者クリステル・ハイデマン氏は、「通信事業者は単なる回線の提供者にとどまらず、安全なデジタル環境を設計し守る存在へ転換しなければならない」と指摘した。劉桂清氏も、安全対策の強化はスマート時代における通信サービスの質を左右する重要課題だと強調している。特に深刻なのがデジタル詐欺である。ミッタル氏は、世界全体での被害額が年間4,800億ドルに達すると指摘し、業界全体で対策を強化する必要性を訴えた。

業界関係者からは次のような対策が提案されている。

・国境を越えた脅威情報の即時共有
・業種を超えた連携による詐欺対策体制の構築
・実質的に通信サービスを提供するインターネット企業を対象とした統一的な安全規制の整備

デジタル格差の是正も、国境を越える通信詐欺への対策も、一国や一企業だけで解決することはできない。現在の最大の課題は、制度整備の遅れと国際的な規則の分断である。

ミッタル氏は、犯罪組織が国境や各種基盤を越えて活動する現状を踏まえ、「各国が個別に対応するだけでは十分な効果は得られない」と警告した。劉氏も、人工知能の安全対策を巡る国際的な協力体制の整備を呼びかけた。

さらに、宇宙通信網の発展も国際的なルールづくりを迫っている。

英国の通信大手ボーダフォン・グループの最高経営責任者マルゲリータ・デラ・ヴァレ氏は、宇宙空間における通信基盤の整備が無秩序に進めば、資本による過度な資源独占が進む恐れがあると警鐘を鳴らした。

宇宙通信の発展に伴い、各国のデジタル主権の保護、通信のプライバシー確保、電波資源の公平利用などを巡る国際的な合意形成が不可欠となっている。

バドリナット氏は、「政府、通信事業者、安全保障の専門家、金融機関、技術企業、そして利用者が協力し、対立的な発想を乗り越えなければならない」と総括した。

スマート時代の展望

モバイル通信は、もはや単なる情報伝達手段ではなく、人工知能社会を支える重要な社会基盤へと進化している。

・接続格差を解消すること
・信頼できる安全基盤を築くこと
・国家や産業の壁を越えて協力すること

これら三つの課題への対応が、次世代のデジタル社会の成熟度を左右する。

スマート時代に求められる競争力は、単なる技術力ではない。どれだけ多くの人が恩恵を受けられるか、どれだけ安心して利用できる環境を整えられるか——。

それこそが、世界の通信業界に問われている真の実力である。

(中国経済新聞)