中国不動産大手・万科集団の会長で深圳地铁集団の書記・董事長を兼務する辛傑氏(59)が失踪したとの情報が広がり、業界に衝撃を与えている。9月18日に深圳で開かれた会議の最中、当局関係者により連行されたとされ、事後23日が経過した現在も深圳万科本社の執務室に姿を見せていない。この出来事は、万科だけでなく深圳国資系全体に超大型台風のような打撃を与える可能性を秘めている。辛氏の失踪は、危機に直面する万科の救済プロセスに新たな不確実性を生じさせ、中国不動産市場の低迷をさらに深刻化させる恐れがある。
万科関係者の一人はこのニュースに「言葉を失うほどショックを受けた」と語る。辛氏の不在は、万科の経営陣再編や深圳国資との調整業務に直撃し、既存の救済策に深刻な不確実性をもたらす。万科は近年、恒大集団や碧桂園集団のような債務危機に陥り、深圳国資の支援なしに破綻寸前だっただけに、この失踪は「火中の救火隊長が自ら火に落ちた」ような事態だ。
開発商の中で「最も出世しそうで、最も出ないはずの人」――それが辛傑氏のイメージだった。1966年生まれの辛氏は、来年60歳を迎え、定年退職を目前に控えていた。公開資料によると、1988年に瀋陽工業大学を卒業後、1998年まで深圳外貿集団や深圳市長城物業管理公司で勤務。経歴の詳細は不明瞭な部分が多いが、2004年から2009年まで深圳市長城投資控股股有限責任公司の副総経理を務め、同時に深圳聖廷苑酒店の董事長・総経理を兼任した。2011年4月には天健集団の書記・董事長に昇進し、国有企業でのキャリアを積み重ねた。

今年1月27日、辛氏は万科会長に就任。中国最大級の知名度を誇る不動産大手が巨額赤字と高管辞任の渦中にあった中、辛氏は「救火隊長」として抜擢された。以降、万科の高管チームの大部分を天健集団や深鉄集団からの部下で固め、深圳国資との橋渡し役を担った。深鉄集団の万科への融資累計はすでに259億元に達し、深圳国資の介入がなければ万科は債務不履行に陥っていただろう。
しかし、辛氏の失踪はこうした安定化努力を一気に崩す可能性が高い。万科の経営陣や深圳国資との連携に混乱が生じれば、救済策の継続が危ぶまれる。
万科の財務状況は依然として厳しい。今年上半期の決算では、短期借入金231億元、1年以内に到期する非流動負債1347億元、有利負債合計1578億元(約3.34兆円)。一方、現金および現金同等物はわずか693億元で、800億元(約1.69兆円)超の資金不足を抱えている。
辛氏就任後、万科は事業部再編や地域会社統合を進め、深鉄集団からの追加融資を得たが、2025年は境内債務326億元、公開市場債券216億元が到期を迎える「償還の山」に直面する。債券価格の変動も激しく、市場の信頼回復は道半ばだ。辛氏の不在がこれらのプロセスを停滞させれば、万科は恒大や融創集団の二の舞を辿るリスクが高まる。深圳国資の支援が鍵だが、辛氏という「調整役」の不在は、融資継続の不透明さを増大させる。
辛氏の失踪は万科単体の問題にとどまらず、中国不動産業界全体に影を落とす。中国経済の屋台骨である不動産セクターは低迷が続き、融創、碧桂園、保利不動産など大手が次々と危機に陥っている。万科や深鉄集団は公式コメントを控えており、真相は不明。
(中国経済新聞)