香港・大埔で5級大火 老朽高層住宅の脆弱性浮き彫りに――高層火災という世界的課題

2025/11/28 12:30

11月26日午後、香港・大埔(タイポー)の公営住宅団地「宏福苑(ホンフクユン)」で大規模な火災が発生した。火勢は急速に拡大し、午後6時には上から2番目にあたる「5級火警」に指定された。香港で5級火警が発令されたのは、2008年の旺角・嘉禾大厦火災以来となる。

香港特区政府消防処によれば、27日時点で55人が死亡、72人が負傷した。27日午前には大規模な炎はほぼ収まったものの、一部の住戸では依然として火が確認され、消火活動が続いた。

■ 外壁修繕中の足場と保護ネットが延焼を助長

宏福苑は1983年に建設された「居者有其屋計画」に基づく公営住宅で、8棟・31階建て、総戸数1984戸を擁する。2024年7月から外壁補修などの大規模修繕工事が進められており、建物の外周には竹製の足場と緑色の工事用ネットが張り巡らされていた。

火災発生後、これらの足場やネットに火が燃え移り、さらに強風に煽られたことで火勢は一気に拡大。最終的に8棟のうち7棟が延焼する深刻な事態となった。

警察の初期調査では、外壁の保護ネットや防水シート、プラスチック素材が防火基準を満たさなかった疑いが浮上している。また、延焼を免れた1棟でも、各階のエレベーターホール外側に発泡スチロールが使用されていたことが判明しており、火勢拡大の一因になった可能性がある。

■ 「高層火災は世界的な難題」

AUDG設計の韓振興デザイン総監は、「高層火災は世界的に見ても最も困難な災害対応の一つだ」と指摘する。

高層建物での消火活動が難しい理由としては、消防車のはしごの高さに限界がある(多くは50m前後)、100m級の雲梯車は非常に少ない、高圧放水でも上層階には届きにくい、といった点が挙げられる。

華南地域の不動産会社の技術責任者も、一般的な消防車は33m(11階程度)までの火災を想定しており、価格は約100万元だと説明する。一方、33階規模をカバーできる101mの雲梯車は約2400万元と高額で、保有数が限られている。それ以上の高さになると、「もはやヘリコプターなどに頼らざるを得ない」と語る。

さらに高層建物では、竪穴空間を通って煙や炎が急速に上昇する「煙突効果」が生じやすく、階層をまたいだ延焼速度が極めて速い。室内に多くの可燃家具や内装材が存在することも、火勢が広がる一因となる。

■ 老朽化した団地構造と住民の生活も火勢拡大の背景に

修繕工事で使用されていた竹製足場や保護ネットに加え、宏福苑には住民が通常通り生活していたため、住戸内の可燃物、ガス設備、といった要素が火勢拡大を後押ししたとみられる。さらに、団地内の建物間隔が狭い、消防車が通行しにくい狭い車道、老朽化によるスプリンクラーや給水設備の機能低下、といった構造的制約が、消火活動の難易度を一段と高めた。

■ 老朽高層ビルが密集する香港の課題

香港では老朽建築の増加が深刻化しており、同様のリスクを抱える建物は多い。最新統計によれば、築70年以上:937棟、築50~69年:7466棟、築30~39年:5432棟、と、老朽化した高層住宅が広範囲に存在する。

香港政府は2012年から「強制建物検査制度」を導入し、築30年以上の建物を対象に毎年約600棟を選んで検査・補修を義務づけている。しかし、老朽化の進行は速く、行政の対応が追いついていないとの声も根強い。

■ 政府は全港の修繕現場を緊急点検

火災翌日の27日、李家超行政長官は「宏福苑の対応を統括しながら、香港全域で進行中の大規模修繕工事について緊急点検を実施する」と発表した。足場や資材の安全性を総点検し、再発防止に向けた対策を講じる方針だ。

(中国経済新聞)