中国の文化めぐり 中秋節とは——「団円饝」や中秋墨、一千年受け継ぐ暗号を探る

2025/10/6 22:27

今年の中秋節は10月6日。祝日となるこの日は文化の祭典であるほか、伝統的な「月見」という一千年の時を超えた対話を目にする日であり、今日の「月あかり経済」を斬新な形で活性化している。

陝西省西安のナイトスポット「大唐」は、中秋節の前に大変な賑わいを見せた。民族衣装である漢服をまとった観光客が絶え間なく往来している中国風味満点の大通りで、特に目を引いたのは「唐詩朗読会」だった。誰もが「杯を挙げて名月を邀(むか)える」心境で唐の時代の中秋節を感じていた。

歴史書によると、唐の時代には旧暦8月15日の夜に文化人が「月見」を楽しんでいたとのことであり、「全唐詩」には中秋節にまつわる詩が80作以上も残されている。

まばゆく光る近代的な町並みが一千年前の月光の詩に出くわす形で、タイムスリップした中秋節の対話が繰り広げられる。中秋節の光景を描いていた唐の詩が今になって当時の盛んな様子を再現し、ナイトエコノミーを活性化する文化の暗号となった。

西安建築科技大学隋唐長安城研究センターの所長である崔凱氏は、「今のわれわれの位置は、唐の時代で中秋節の夜に『月見』をしていた杏園や曲江池、芙蓉園の辺りだ」と言う。当時江州の役人であった白居易は旧暦8月15日の夜,曲江池のほとりにある杏園、つまりわれわれが今いるこの場所でアイデアを生み、詩を書き出した。今日まで伝えられた詩には、それぞれの作者の感情表現も込められている中、街並みの様子も描かれていて、本物のように生き生きした長安の風景も表現してくれている。

崔氏は歴史との「ふれあい」を生み出そうと、研究スタッフとともに14年間かけてこれらの詩の内容に沿って古代建築を「復元」し、唐代の都・長安の今昔対照図を制作した。詩の中にある「月見の地」を今の街中に記載して、伝統文化を今の都市にきめ細かく埋め込んでいったのである。

中秋節は例年、四季の中で秋のさなかである旧暦の8月15日であり、家族の輪を象徴するほか、豊作や幸せへの願いがこめられたものでもある。

陝西省の民俗専門家である王智氏は、「中秋節は秋分に近く、また土地の神を祭り豊作を祈る昔からの『秋社日』とも関わりがある」という。中国は昔から耕作を基盤とした農業の文明社会であり、その中で中秋節は、ちょうど秋も半ばを過ぎ、五穀が実り豊作が期待され、また種まきの準備をする大切な時期である。収穫の喜びを味わうと同時に、肥沃な土地へのありがたみを感じなくてはいけない。めぐり来る自然に従い、すべてのものを敬うという考えがまさに、こうした自然や社会の条件のもとで次第に中秋節を生み出していったのである。

中国人は、「丸い月と家族の輪」を大切にしている。こうした人と自然の調和は、文化への想いを込めたもの、さらには時を越えても脈々と続くノスタルジアである。そしてこの気持ちは、昔から月餅に込められており、縁起の良さや家族の輪を象徴する存在となっている。月餅については庶民の間でも随分と書き残されている。

王氏によると、陝西省の中南部では庶民の間で代々伝わる「団円饝」という昔ながらの月餅がある。普通は大きいもの1個に小さいものがいくつか加わり、家族のみんなを意味している。形は三日月状のものも円形もあり、家族分にいくつかに切って、遠方で暮らす人には里帰りした時に食べてもらおうと赤い布で包んでおくなど、家族の輪がそこここに表れている。

「団円饝」は中秋節を彩るものとして本家の月餅よりも歴史が古く、一千年の文化の暗号が込められている。主成分は小麦粉で、胡桃や落花生や胡麻を具材とし、表によもぎが刻まれた月桂樹が描かれている。味を楽しむだけでなく、文化の遺伝子を受け継ぐものでもある。

過ぎゆく時代とともに、品数豊富な月餅に座を奪われつつある「団円饝」であるが、同じように家族の輪を願う気持ちを載せた伝統文化への想いは、いつまでも舌先に残るものである。

今年の中秋節、安徽省黄山の古い街並みでは、特別に作られた2種類の「中秋墨」が来訪者の人気を集めている。墨造りの職人が地元に伝わる「徽墨」を月餅の形に仕立て上げた。「中秋団円」「花好月円」と刻まれた文字が伝統の存在感を強調し、枝葉状や渦巻き模様に縁起のよさが込められるなど、伝統文化の奥深さが表れている。

安徽省ではまた、阜陽水街でも昔ながらの伝統に新たな活力を加えるような催し「火祭り」がたけなわである。中秋節における祈りの習慣は元の時代にさかのぼるもので、たくさんの火が次々と灯され、街中をすり抜ける火の竜のようであり、古来からの儀式を現代の中秋節で一味変わった趣に変えている。

月の光と火の光が相まみえ、中秋節の祈りを一千年にわたって続ける。四川省綿陽では月の光が羅浮山に注がれる中、七弦琴と洞簫の合奏で「水調歌頭」のメロディーが流れ、一千年をまたいだ今昔の対話が幕を開く。

中国非物質文化遺産研究院の魯煒中氏は、「七弦琴は『聖人の器』とも言われ、清らかで美しい音色が中秋節の月見の際に求める澄んだ心持ちにぴたりとはまる。唐の時代の名器『秋籟』の音色は「微妙で繊細、潤いがあり長らく続く」と言われており、中秋節の夜に一番ふさわしい音楽的表現だ」と述べる。

切り紙の達人が赤い紙をなびかせ、「月餅を供えるうさぎ」を細やかに描き出す。またひょうたん烙画の職人は、手のひら大のひょうたんに火を墨にした形で月へと向かう嫦娥を見事に描き出している。

今年の中秋節。いにしえの詩や墨の跡、七弦琴のゆったりしたメロディー、伝統職人の指先、それぞれが脈々と続く文化の歴史に触れ、伝統文化の魅力が感じられるものになっている。

(中国経済新聞)