中国の自動車メーカー、奇瑞(Chery)自動車が、電気自動車(EV)の次世代技術である固体電池の開発で大きな一歩を踏み出している。奇瑞は固体電池研究院を強化し、2026年に全固体電池を搭載した車両の試験運用を開始、2027年には量産化を目指す計画だ。この動きは、航続距離1500km超という驚異的な性能を目標に掲げ、広汽(GAC)、長安(Changan)などの競合他社と熾烈な競争を繰り広げる中国のEV市場における新たなマイルストーンとなる。
奇瑞は固体電池の開発を加速するため、固体電池研究院の規模を拡大している。IT之家の2025年7月4日の報道によると、研究院は現在約50人の研究者で構成されており、その多くが博士号を持つ専門家だ。奇瑞はさらに人材獲得を強化し、年内に研究員を約100人に増員する計画を進めている。電解質、セル、製造プロセス、設備など、固体電池のあらゆる分野で積極的に採用を行っており、技術開発の基盤を固めている。
しかし、報道によれば、奇瑞の研究院にはまだ固体電池分野を牽引するリーダー的な技術者が不在であり、業界からトップクラスの人材をスカウトする努力が続いている。この点は、奇瑞が短期間で技術的なブレークスルーを達成するための課題とも言えるが、同時に、同社が本気で固体電池の開発に取り組んでいる証でもある。

奇瑞の固体電池開発は、硫化物系電解質を主軸に据えている。硫化物は、高いイオン伝導性とエネルギー密度を実現できる有望な材料として知られ、固体電池の実用化において注目を集めている。奇瑞は硫化物技術を優先しつつ、酸化物やハロゲン化物などの他の材料の研究も並行して進めており、技術的なリスクを分散させながら最適なソリューションを模索している。
固体電池の最大の魅力は、従来の液体リチウムイオン電池に比べて安全性とエネルギー密度が飛躍的に向上することだ。液体電解質の漏洩や発火リスクを排除し、高温環境下でも安定して動作する固体電池は、EVの航続距離の延長と安全性の向上を同時に実現する。奇瑞は、この技術を活用し、2027年の量産化時には航続距離1500km以上を達成する計画だ。この数字は、現在のEV市場における標準的な航続距離(500~800km)を大きく超えるものであり、消費者の「航続距離不安」を解消する革新的な一歩となるだろう。
奇瑞の固体電池開発の進捗は、2024年10月に開催された「2024奇瑞グローバルイノベーション会議」で大きくアピールされた。この会議で、奇瑞は自社開発の電池ブランド「鯤鵬(Kunpeng)」を正式に発表し、固体電池の開発ロードマップを公開した。具体的には、2026年に全固体電池を搭載した車両の試験運用(定向運用)を開始し、2027年に量産化を実現するという計画だ。
鯤鵬電池は、固体電池だけでなく、既存の技術である方形リン酸鉄リチウム電池、方形三元系電池、大円柱三元系電池の3つのカテゴリーを含む包括的なブランドとして位置付けられている。これらの電池は、最大6Cの急速充電に対応し、5分間の充電で400kmの航続距離を追加できる性能を誇る。固体電池の導入により、さらなる性能向上が期待されており、奇瑞の技術力が世界市場で注目を集めている。
奇瑞の取り組みは、中国のEV業界における固体電池開発競争の一環だ。広汽、長安、上汽(SAIC)などの主要自動車メーカーも、2026~2028年の間に固体電池の搭載車両や量産化を目指すと発表している。例えば、広汽は2026年に固体電池を搭載した「昊鉑(Hyper)」ブランドの車両を投入する計画を進めており、長安も同様のタイムラインで技術開発を加速している。
この競争の背景には、EV市場の急成長と、電池技術が市場シェアを左右する重要な要素であるという認識がある。固体電池は、従来の電池に比べて充電速度、寿命、安全性、エネルギー密度のすべてにおいて優位性を持つ「次世代技術」として期待されており、どの企業が最初に量産化に成功するかが、業界の覇権を握る鍵となる。
奇瑞の固体電池開発は有望だが、量産化にはいくつかの課題が残されている。まず、硫化物系電解質は空気や湿気に敏感で、製造プロセスの環境管理が難しい。また、コストの低減も重要な課題だ。固体電池は現行のリチウムイオン電池に比べて製造コストが高いとされており、量産化の際には価格競争力を確保する必要がある。
さらに、奇瑞がリーダーシップを発揮する技術者を確保できるかどうかも、プロジェクトの成否を左右する。競合他社が同様に人材獲得に動いている中、奇瑞が優秀な研究者を引きつけられるかは、技術開発のスピードと質に直結する。
それでも、奇瑞の積極的な投資と明確なロードマップは、固体電池の量産化に向けた強い意志を示している。2025年5月には、固体電池を搭載した検証車両「星紀元ET」が公開され、国軒高科(Gotion High-Tech)との協業の可能性も浮上している。こうした動きは、奇瑞が計画通りに進んでいることを示唆する。
奇瑞自動車の固体電池開発は、中国のEV産業が世界の自動車市場で主導権を握るための重要な一歩だ。硫化物技術を軸に、2026年の試験運用と2027年の量産化を目指す奇瑞は、航続距離1500kmという野心的な目標を掲げ、広汽や長安との競争をリードしようとしている。課題は多いものの、人材の拡充と技術開発の加速により、奇瑞は固体電池の量産化を実現する可能性を秘めている。
(中国経済新聞)