今年2月、中国の酒造最大手「茅台酒」(マオタイ)が自信をもって立ち上げたアイスクリーム事業部が解散した。一時は1日の売上高が250万元と社会現象にもなった商品が、あえなく過去帳入りしそうである。
事業が急速に伸びていた2024年の春、第1四半期の売上高は前年比239%増を記録していた。
しかしその一年後、様相が一変していた。
マオタイのアイスクリーム部門は、登場した2022年5月から撤退した2025年初めまでの3年間、売り込みに4.6億元を費やしたが、最後のひと花を手に入れて哀愁の後ろ姿とともに市場を去っていった。
若年化への試みの失敗、これは焼酎大手の改革の難しさを物語るものである上、従来型の業種が時代の変化に直面した際のいらだちも垣間見えている。
一、焼酎大手の「青春不安障害」
高価なマオタイの酒がアイスクリームのミキサーに注がれた時、焼酎業界全体は明らかにパニックを感じた。
中国酒業協会によると、2023年は焼酎を飲む人の平均年齢が42歳に達し、1990年代生まれの割合は15%以下まで落ち込んでいた。
こうした冷ややかな数字から、若者たちがウイスキーやクラフトビールを好み、焼酎の消費にブレーキがかかっている様子が伺える。
2024年1~9月は、酒造業界全体の純利益の中で、マオタイ、五糧液など大手六社の合計割合が92.66%を占めた。
市場が一段と大手に絞られていく中、消費者の高齢化問題も深刻化している。
マオタイがアイスクリームを手掛け始めたことは、教科書レベルの危機広報とも言われた。
カップアイスにアルコール度数53%のマオタイを2%混ぜ、値段はネットインフルエンサーのデザート価格として66元に据え、若い女性の心を捉えようとした。
この狙いは、しばらくは功を奏した。
蒙牛乳業と手を組んで作ったこのアイスは2022年5月に発売され、転売屋に1カップ288元までつり上げられたものの、若者たちが「衝動買い」をして、SNSで画像がアップされたりした。
しかし、こうしたうわべの盛り上がりは映画の行きずり恋愛そのものであり、好奇心は薄れ、再購入率が3%以下まで落ち込んでしまった。2023年には上場している酒造メーカー19社が若年化への改革へ合計50億元以上を投入したが、直接の収益は8億元以下にとどまった。
二、人気上昇の背後にビジネス上の矛盾
アイスを手掛けたマオタイの関係者は、「アルコール分含有量2%」を維持するのに1トンあたり12万元ものコストがかかる、という計算をしていなかったようである。
これでは利益率は、通常90%とされる焼酎にはるかに及ばない28%にとどまる。
店で100人分のアイスを売っても利益がマオタイ1本分にも及ばないと分かった時にはもう、販売策の失敗が決定していた。